珍しいかどうかはわかりませんが、私は「搾乳器」を推すタイプの助産師です。
私は出産経験はありませんが、出産したらば搾乳器を早期から使おうと思うくらい、搾乳器が好きです。その理由について述べていきたいと思います。
もくじ
1.きっかけ
きっかけは、看護師1〜2年目で過ごしたNICUです。産婦人科病棟の助産師さんが興味あるデータを持ってこられました。
「NICUに入院経験のあるもしくは入院中の母子の母乳率が産科病棟で母子ともに問題なく退院した母子より高い。」
という結果です。これに対し、母乳育児を継続するには、産後の継続的な関わりが必要である、ということを産婦人科の助産師さんたちが言っていました。確かにそれも関係していると思いますが、私はあるお母さんのことを覚えています。
10年以上前の記憶なんでちょっと朧げなのですが。
そのお母さんは、母乳が産後3〜4日でしっかり出るようになりどちらかというと、過多傾向にありました。
どうしてそうなったか、実は産婦人科のスタッフはあまり関わっていなかったそうです。そしたら、そのお母さん。「おっぱいしぼらないと。」ということはわかっていたけど、やり方がわからなかったので、授乳室にある「電動搾乳器」で絞っていたそうなんです。そしたら、よく出るようになった、と。産婦人科のスタッフとしては苦笑い案件ですし、当時Nにいた助産師は、「そんな早期から搾乳器使って、おっぱいゴリゴリになる」と言っていましたけど、大したトラブルもなく、後に退院された記憶があります。
2.BFHの母子分離中の母親への育児支援
先ほどは助産師さんが「そんな早期から搾乳器を使うなんて」と言っていましたが、母乳育児成功のための10カ条を実践し、母乳栄養率が9割を超えるBFH(赤ちゃんにやさしい病院)に就職して、確信したことがあります。
「搾乳器は凄い。」
私がいたBFHは、クリニックでお母さん自身はローリスクであることがほとんどです。しかし、分娩時に赤ちゃんがしんどい状態で生まれたり、特別な血液のタイプによって黄疸のリスクが高くなる、など赤ちゃん側の理由から赤ちゃんは別施設のNICUに行ってしまい、母親は出産した病院に残る「母子分離」となるケースが少なからずありました。
私がいたBFHでは、早期からの直接授乳と母子同室が基本です。
母乳は最初から出るわけではありません。簡単に説明すると、赤ちゃんがお母さんの乳頭を吸って、その吸われる刺激によって母乳の産生量が増えていきます。
ですが母子分離状態になると、赤ちゃんの状態が良ければNICUで面会時に授乳することが可能ということもあるかもしれませんが、赤ちゃんの状態によっては保育器から出せなくて授乳ができない、と言うこともあります。
もし、分娩後にまったく授乳をしなかった場合は、母乳産生に必要なホルモンに「プロラクチン」というホルモンがありまして、そのプロラクチンは分娩直後が一番高いのですが乳頭への吸啜刺激がなければ、分娩後7日には非妊娠時レベルまでになります。妊娠したことがない女性は通常、母乳は出ませんよね。
じゃあ、吸啜刺激をどう与えていくか。私がいたクリニックでは、
電動搾乳器で3時間おきに乳頭刺激、搾乳をしていました。
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いや、もうね。先輩方も厳しくて、お母さんが突然の母子分離で泣いてあって、疲れて寝てるからとちょっと4時間くらい寝かせてあげたらめっちゃ怒られましたから、結果的に搾乳回数が少なくなったんで。しかし、その搾乳器での搾乳がどれだけ凄いかと言いますと、
産後3日目には1回で100ml搾れるお母さん続出。
1日100mlじゃないですよ。1回100mlですよ。
母子分離じゃなくても、赤ちゃんが小さいなどしてうまく吸えないや、妊娠中切迫早産で乳頭ケアができなくて乳頭が硬く、赤ちゃんが吸えない、と言った場合にも電動搾乳器は出動。クリニックの先生が、「器械に頼るのはちょっと、、、。」と言っていましたが、お母さんも自分でケアできるし、私たちもずっとはついてあげられる余裕がなかったので、その発言、ほぼ無視されてました。笑
3.BFHではない病院でBFHの母乳ノウハウを実践してみた
私が勤めていたあるクリニックで入院中に希望がない限り、ミルクをあげないと産婦人科医が怒るという病院がありました。しかし、母乳を希望されるお母さんは多く、またなんとびっくり病棟にいる助産師がほぼ私しかいないという状態で、分娩もみながら、妊婦健診もしながらだったので、スタッフさんに助けてもらいながらなんとかやれましたが、助産師が私しかいない、ということは、母乳に関するケアは私が勝手にやっていいんだ(笑)という水を得た魚のように、のびのびとさせていただきました。病棟内にメデラのハーモニーという搾乳器を発見したので、まずはこの搾乳器を使っていくことにしました。
そのうちのいくつか事例を挙げます。
(個人が特定されてはいけないので、ちょっと表現がぼやけたり、必要以上の情報は書いていません)
Case1 母子分離中のママ
赤ちゃんが病気でNICUに入院したために、母子分離となられました。経産婦さんで、前回も母乳育児だったとのことでしたので、分泌は期待できる、と思いました。搾乳器は使ったことがないらしく、搾乳器の使い方、組み立て方、搾乳(乳頭刺激)する頻度を説明し、あとはほぼお任せでした。ホント、すいませんって感じでしたけど、ママが退院する頃には40mlと、赤ちゃんの必要量は出るようにはなっていました。
Case2 陥没乳頭のママ
経産婦さんでしたが、陥没乳頭で1人目はミルクだったとこのこと、しかし、退院前に分泌をチェックしたら、あれ?よく出る。真性陥没乳頭といって、刺激しても乳頭が出てこないタイプで直接授乳は難しいので、搾乳器で搾ってみたら、やっぱり赤ちゃんの必要量出ていました。そしたら、そのお母さんは、搾乳器を買って帰られ、1ヶ月健診の時には搾乳だけを赤ちゃんにあげていたそうです。
体重増加も良好。
「前回は母乳出なかったけど、今回はこんなに出て嬉しい。」
と言っていたとのことで、あのタイミングで搾乳器をお勧めできたのが良かったな、と心の中でガッツポーズが出ましたよね。
4.電動搾乳機の活躍
そんなことで、搾乳器の布教活動につとめたので、搾乳器の使用にスタッフの抵抗がなくなり、師長さんにBFH時代に使っていた電動搾乳器(メデラのシンフォニー)購入を検討いただいたのですが、見積もりの時点で高額であったため、師長に「これは院長にお願いできないわー」言われ、断念しました。別病院でこれを寄贈された助産師さん(しかも2台)いらっしゃったんですけど、寄贈するのもすごいな、と思っていましたが、値段聞いて余計にびっくりでした。私のボーナスだけじゃ足りんがな。すると、見積もりをお願いしていた業者の方が、ピジョンの電動搾乳器をテストように、と持ってきてくださりまして。サイトを見てきたらもうその搾乳機なかった(涙)搾乳器も進化してますね。それをちょこちょこ使うようになりました。
テストなので試しに数名の方に使っていただきました。
Case4 必要がない症例
元々、母乳が出ているので必要ない方なんですが、分泌が良いので搾乳機を試していただきました。痛みもなく、楽だったのですが、「乳頭が大きくなって子どもには吸いにくくなったようです。」とのこと。1回だけの搾乳でしたので、すぐに乳頭は戻り問題なかったのですが、つまり赤ちゃんとの相性が元々良い乳頭(介入の必要がない)乳頭には使わなくて良い、もしくは使わない方がいい、ということも学ばせていただきました。
Case5 食べながら授乳
分泌はあるのになかなかお子さんが吸ってくれない褥婦さんに電動搾乳器を使っていただきました。こちらも痛みはなかったんですが、ちょうどおやつの時間でおやつが机に置かれました。すると褥婦さん、片手でスプーンを持っておやつを食べていました。「美味しそうだったので」と照れながら食べていらっしゃいましたが、この電動搾乳器を使うことで食べながら授乳ができる、というメリットを教えていただきました。
Case6 硬い乳頭
里帰り出産の方で、妊婦健診時に乳頭チェックしたらなかなかの硬さ。産後はやはりなかなか吸えず、乳頭の柔軟化と分泌を促す目的で早期から搾乳機の使用を始めました。分泌は良好になりましたが、退院時点では乳頭は硬く、搾乳で退院されました。産後3ヶ月の時にお会いしました。乳頭がとても伸びるようになったので、試しに直接授乳をしたら吸えるようになった、と笑顔で仰りました。途中、分泌過多で大変な思いもされましたが、本当によく頑張られ、努力が実られた事例だったと思います。
Case7 職場での搾乳
まぁ、そんな症例を見ているので妊娠後期だった友人に勧めたんですけど、どのメーカーが良いかという話になりました。その当時は別の病院に転職していて、そこでアルドという会社が出しているアマリルという製品を先輩看護師が試しに使っていて、その製品のカップのフィット感の良さなどを言っていたので、そのメーカーの話をしました。手動と電動どちらが良いか、という話になって使ったことはありませんでしたが、「電動が楽に決まってるやろ」ということで電動搾乳器(カリプソ)を購入。産後搾乳が必要になり、カリプソを使おうと思っていたらパーツがあわず、しばらく手絞りで頑張っていたそうです。しかし、パーツが届いたら、
「なにこれ、楽」
の一言。彼女はすぐに職場復帰したそうですが、職場にもこの搾乳器を持っていていました。職場でケープ等で隠して自分のデスクで搾乳していたそうで。体験している自分が伝えなければならない、という積極性には脱帽します。カリプソについては、彼女の方が詳しいくらい、熱い紹介文を送ってくれたことがあります(笑)
私は体験がまだできないので、体験者の意見は貴重なのです。
(自分で言って、自分に刺さりました、、、笑)
5.母乳だけが全てではない。
産後のママは大変です。疲れているのに母乳育児が始まり、出ないおっぱいを吸われ、泣かれると辛い気持ちになり涙されるママさんたち、いらっしゃいます。
時々勘違いされるのですが、助産師のマッサージがおっぱいを出すのではありません。基本は、先ほども述べたとおり吸啜刺激なのです。その辛い時期を頑張れば努力は実ります。
しかし、中には母乳が出ない方、母乳をやめないといけない方もいらっしゃいます。母乳をやめる理由としては、様々ですが、私も自身の疾患から内服をしており、有益性はあるかもしれませんが、母乳だけでは難しいだろうと思っています。
私は、母乳育児へのデメリットも感じています。
共働き世帯が増え、離乳食開始前の乳児が預けられるご家庭もいるかと思いますが、ミルクが飲めない、と苦労される方もいます。
第1子の育児で預けられないなどの苦労があり、経産婦さんで混合を希望される方も多いです。
一昨年ではビタミンD不足によるくる病の問題も指摘されていました。母乳のビタミンDの含有が少ないことが問題なのですが、ビタミンDは日光浴をすることで体内で生成が可能でもあること、母体がビタミンDを摂取していくこと離乳食期になったらビタミンDを補うことが必要となります。
だから、私はママさんが「母乳育児で頑張りたい!」という気持ちがあるならば寄り添いたいと思いますが、母乳育児を強要するつもりはありません。お母さんが休みたい時、母乳分泌がゆっくりな時など、ミルクに頼ることは悪いことではない、と私は考えています。
この情報が、母乳育児を頑張りたいけど、うまく吸ってくれないというママたちの少しでも助けになってほしいな、と思って体験談を書いてみました。
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