もくじ
はじめに
前回は妊娠期の推奨体重増加について説明しました。
今回は妊娠期に必要なカロリー摂取量や、摂っておきたい栄養素についてお話していきます。
妊婦に必要なエネルギー量

そもそも妊娠していない女性でも年齢や身長に合わせた必要なエネルギー量(カロリー量)は違います。妊娠していたら、妊娠時期に合わせて付加していく、つまり今よりある程度プラス摂取する、というイメージです。どれくらいプラスなんでしょう。
その前に、妊娠していないときの1日に必要なエネルギー量を求めましょう。
必要なエネルギー量の求め方は、
必要エネルギー量(推定エネルギー必要量)= 基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベル
となります。基礎代謝量の求め方は、
基礎代謝量=基礎代謝基準値(kcal/kg/日)×標準体重
18歳〜29歳 女性の場合 基礎代謝基準量は22.1(kcal/kg/日)です。
30歳〜49歳 女性の場合 基礎代謝基準量は21.7(kcal/kg/日)
ここにあなたのあなたの、身長(m)×身長(m)×22をかけます。
それはあなたの身長の標準体重です。
では、例として28歳女性 身長160cm の女性の基礎代謝量を求めます。
まず、標準体重を求めましょう。1.6×1.6×22=56.32kgとなりました。
四捨五入して、56.3kgとしましょう。
そこに、基礎基準量22.1(kcal/kg/日)をかけましょう。
22.1×56.3=1244.23 となりました。
これが基礎代謝量(kcal/日)です
基礎代謝量とは、1日中じっと動かなくても消費されるカロリーのこと。
皆さんは何かしら動いているはずです。
ですので、身体活動レベル別の値をかけます。
身体活動レベルは3段階に分かれます。
身体活動レベルⅠ:1.50
生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合。
専業主婦、デスクワークの方が中心など。
身体活動レベルⅡ:1.75
座位中心の生活であるが、職場内での移動や立位での作業・接客等。あるいは通勤・買い物・家事、軽いスポーツ等いずれかの場合を含む場合。
専業主婦でも育児中の方はこっちでもよいでしょう。
身体活動レベルⅢ:2.0
移動や立位の多い仕事への従事者、あるいはスポーツなどの余暇における活発な運動習慣を持っている人です。
農業の方もこちらでよいかと考えます。
ということで、28歳女性、身長160cm 、接客業をしているとしましょう。
先ほどの計算で基礎代謝量は1244(kcal/日)*小数点は四捨五入しました、
身体活動レベルⅡなので、
1244×1.75=2177kcal となります。
これは妊娠していないときの1日あたりに必要なエネルギー量です。
妊娠してからは、妊娠初期、中期、後期に分けてエネルギー量を付加していきます。
妊娠初期(〜妊娠15週・妊娠4ヶ月)
必要なエネルギー量+50kcal(1日あたり)
50kcalなんて、卵1個よりも少ない量です。
この時期の妊婦さんたちはつわりがしんどい、という方が多いでしょう。
この時期の胎児(赤ちゃん)は実は母体からの栄養をあまり必要としないのです。
ですから、妊婦さんに必要なエネルギー量だけを摂取すればよいのです。
(しんどいと必要エネルギー量もとれないかもしれませんが)
つわりによる嘔吐で脱水になることがありますから、水分をよく摂ってください。
妊娠中期(妊娠16週・妊娠5ヶ月〜妊娠27週・妊娠7ヶ月)
必要なエネルギー量+250kcal(1日あたり)
この頃になると、胎児に栄養を送る胎盤が完成し、血液の需要が増加し、胎児の骨格や筋肉が育っていきます。そのため、妊婦さんもそれに応じて、ほかの栄養素も摂っていく時期になります。
しかしつわりが治ると、食欲が増してつい食べ過ぎになりがち。
250kcalは、米飯小盛1杯(150g)くらいですのですのでご注意を。
妊娠末期(妊娠28週・妊娠8ヶ月〜分娩前)
必要なエネルギー量+450kcal(1日あたり)
450kcalは、握り寿司8貫ほどに相当します。
胎児が急速に成長します。
ですが、赤ちゃんが大きくなると、その分胃が圧迫されて1回でたくさんのご飯を食べることができなくなります。その場合は、1日3食を1日5食とか6食と小分けにして食べても大丈夫、ですが、食べ過ぎにも気をつけてください。赤ちゃんが大きくなって胃だけでなく腸も圧迫されますから、便秘にもなりやすいです。
<注意>
必要カロリー量は、あくまで正常経過の妊娠をしている妊婦さんが対象です。
妊娠糖尿病がある方や肥満妊婦さんの場合、上記の計算式ではないメニューになる可能性もあります。その場合はきちんと栄養指導を受け、病院の指示に従ってください。
妊娠中にとって欲しい栄養素

お腹にいる胎児(赤ちゃん)のためにとって欲しい栄養がいくつかあります。
葉酸
妊婦葉酸摂取推奨量:480μg /日
大事なので最初に書きました。これは、妊娠初期にこそ、とって欲しい栄養です。
葉酸はホウレンソウやアボカド、イチゴに多く含まれています。
葉酸は私たちのDNA合成に必要な水溶性のビタミンで、妊娠初期(特に妊娠7週頃まで)の児の発育には不可欠です。
葉酸が不足すると、お腹の中の赤ちゃんの脊椎がうまく作られず、二分脊椎などの神経管閉鎖障害という奇形になってしまうリスクがあります。
妊娠前1ヶ月〜妊娠3ヶ月にかけて400μg /日の葉酸を摂取し続けることで、二分脊椎の発症リスクを低減させるという報告があります。
ですから、妊娠初期の女性だけでなく、妊娠を計画している女性は葉酸を積極的に摂取していく必要があります。また、大量のアルコール摂取は葉酸をの吸収・代謝を妨げるため、アルコールの摂取は控えましょう。
しかし、いざ摂取するとなると、
アボカド100gあたりの葉酸量は84μg、カロリーは186kcalです。
アボカドだけで推奨量の葉酸を摂取するなら、アボカドを570g食べないといけない計算になります。アボカドだけで1060kcalと高カロリーになってしまいます。
(アボカドだけで摂らないとは思いますが 笑)
ホウレンソウは、生食なら100gあたり210μgですが、水溶性(水に溶けやすい)ので、茹でると、100gあたり110μgまで葉酸は減ってしまいます。
ですから、葉酸のサプリメントを合わせて摂取すると推奨量は取りやすいかと思います。
妊娠初期を過ぎても葉酸は、ビタミンB 12と協調して造血(血をつくる)作用に働くので貧血予防としても効果があります。
鉄
妊娠によって、体内を循環する血液量は増加します。胎盤にたくさんの血液を送らなければいけないからです。そのため、赤血球量が増えます。赤血球に必要なのが鉄分です、また、胎児にも鉄分が供給されます。ですから、妊娠中は貧血になりやすいです。
18歳〜29歳の 鉄分摂取推奨量は、
妊娠初期 8.5mg/日(6.0mg+2.5mg)
妊娠中期 21.0mg /日(6.0mg+15.0mg)
妊娠末期 21.0mg/日(6.0mg+15.0mg)
30歳〜49歳の 鉄分推奨摂取量は、
妊娠初期 9.0mg/日(6.5mg+2.5mg)
妊娠中期 21.5mg /日(6.5mg+15.0mg)
妊娠末期 21.5mg/日(6.5mg+15.0mg)
<注意>
上記はそれぞれ月経なし時の推奨量に妊娠付加量を足しています。
非妊娠時は月経ありなので、18〜29歳は10.5mg /日、30歳〜49歳は11.0mg /日が推奨量となります。
鉄分が多く含まれているのは、肉類や貝類、ほうれん草などですが、肉や貝など動物性食品に含まれているヘム鉄が、ほうれん草や穀物など植物性食品に含まれている非ヘム鉄より吸収がいいです。
私のお勧めは、あさりの水煮缶を使った料理。あさりの水煮は、100gあたり29.7mgの鉄分が含まれています。お味噌汁に入れるとおいしいです。
また、鉄分はサプリメントで補うこともできますし、ビタミンCも摂取すると吸収が促進されます。ただし、緑茶や紅茶、烏龍茶やコーヒーに含まれているタンニンは鉄の吸収を阻害しますので、注意しましょう。
タンパク質
タンパク質は、胎児や胎盤の発育だけでなく、妊婦の子宮肥大や循環血液量が増えることから需要が高まります。
18歳〜49歳女性のタンパク質推奨量は50g /日です。
妊娠初期は付加量はありません。
妊娠中期は、付加量が+5gで55g/日、
妊娠末期は、付加量が+25gで75g /日
となります。タンパク質といえばお肉ですが、お肉に脂質はつきもの。
高タンパクで脂質の少ないお肉を選んだり、お肉以外にも豆腐など植物性のものからでもタンパク質は取れます。こちらも過剰に食べ過ぎるとカロリーオーバーになりますからバランスに気をつけていきましょう。
*column*
ビタミンと美容

皆さんの中には、日々美容に努力を重ねている方もいるはず。
サプリメントでビタミンを補って、日焼けを避けるために日を避けて、、、でも妊娠中や育児でちょっと気をつけて欲しいことがあります。
まずはサプリメント。レチノールという成分を知っていますか?
レチノールはビタミンAの1種です。美容の効果があるのでサプリメントなどに配合されていることがあります。ビタミンAは、胎児の皮膚や粘膜形成に必要な成分ですし、私たち自身も不足すると感染しやすくなったり、夜に目が見えないなどの症状が出ます。しかし、「レチノール」は妊娠初期に過剰に摂取すると胎児奇形を起こす可能性があります。ですから、3000μg /日を超えないように摂取しないといけません。美容に関するサプリメントを飲むさいは、この「レチノール」がどれだけ入っているか、というのには気をつけてください。
そして日焼け対策ですが、数年前に子どもの「くる病」という病気が新聞に載ったことがあります。「くる病」は「ビタミンDという成分が不足することで起きます。ビタミンDはカルシウムの吸収を促進する役割があり、妊娠中は需要が高まります。ですが、ビタミンDは紫外線により活性化されるため、妊娠中に日光暴露(太陽光に当たること)が少ないとや元々のビタミンD不足から胎児の骨の形成に異常をきたす場合があるのです。
また産後、母乳の中のビタミンDの含有は少ないため、母乳育児で赤ちゃんが日に当たらない生活をしていると赤ちゃんもビタミンD不足となり、骨の発達不良をおこし、「くる病」という病気になってしまいます。
ですから、ビタミンDを意識した生活を送って欲しいです。
妊婦さんも産後の赤ちゃんも日光浴をしましょう、日光を完全シャットアウトしないでください。少しでもよいので当たって合成して欲しいです。
そして、ビタミンDを取りましょう。ビタミンDが多く含まれている魚介類を食べるといいでしょう。アレルギーが心配かもしれませんが離乳食にも魚や卵などビタミンDが含まれているものを取り入れて欲しいです。
最後に
ここまで栄養、食事のお話をしてきましたが、私は、毎日「〇〇Kcal!」ときっちりした生活を送って欲しいわけではありません。ダイエットと一緒です、たまにはハメを外してもいいと思います。それを後日で調整すればよいのです(でも妊娠中はダイエットしないでね。)
きっと、妊婦さんの中にはこれまでビールを飲んでいたのに飲めないのに夫は飲んで帰ってくる、とか自分だけに制限がかかることにモヤッとした気持ちも生まれるかもしれません。これを機に、夫婦で健康的な食事を意識してみてもよいかもしれません。一人より二人、仲間がいると心強いし、やる気の継続につながります。ストレスゼロ、は難しいですがなるべくストレスが少ない妊娠生活を送って欲しいな、と思います。
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