
もくじ
はじめに
これまで妊娠ばかり書いてきました。もっと妊娠について書きたいのですが、出産を控えている人もいると思いますので、幅広く(笑)。臨月に入り、いよいよ出産という人。初めての人はどんな痛みか想像できないし、経産婦さんは上の子のときどうやったっけ〜?とあまり記憶もなく、しかも今回は上の子もいるし、でどんな妊婦さんでも大体ドキドキしているんじゃないでしょうか。
今回は出産の基本、出産(分娩)の経過についてお話ししてイメージが少しでもついてくれれば、と思います。
出産(分娩)の前兆

出産の前に何か前兆はあるのでしょうか?個人差はありますが、下記のような前兆があると言われています。
①胃がスッキリする。
お腹の赤ちゃんで圧迫された胃が、赤ちゃんがお産に向けて下の方に降りることで、胃への圧迫が開放されます。それに伴い、お腹が下がった感じがします。
②頻尿
赤ちゃんが下に降りてくることで、今度は膀胱が圧迫されます。これは私の友人の分娩介助についた時の経験なのですが、分娩の前日にファミレスでお茶をしていて彼女が「やたらトイレに行くな〜」と思っていたら深夜に破水していて、そのままお産につかせていただきました(笑)
そして皆にファミレス行ったことがばれました(笑)
③恥骨の痛み
これも赤ちゃんが降りてきて赤ちゃんの頭が恥骨を圧迫するためです。また、骨盤周囲の靭帯を緩める「リラキシン」というホルモンが恥骨結合を緩めるためでもあります。これも現場で逆子(骨盤位)が治った妊婦さんが、「赤ちゃんが回ってからここ(恥骨)が痛い〜」って言っていたのですが、数日後に出産されました。
④お腹が張りやすくなる。(前駆陣痛)
お腹が張る回数が増えてきます。お腹が規則的に張ったかな、と思ったら間延びしたり。痛みを伴うこともありますが、分娩陣痛の方が痛いです。この陣痛は、子宮の入り口を柔らかくする効果があります。
⑤産徴(おしるし)
出産が近づくと分娩時の潤滑油効果がある帯下が増えますが、帯下に少し血が混じることがあります。それが「産徴(おしるし)」です。これは子宮の入り口が柔らかくなって開き、子宮の入り口とくっついていた赤ちゃんを包む膜(卵膜)が剥離してそこから出血するからです。出血の量は少量です。月経の多い時期(生理2日目)よりも多い出血は異常です。
⑥胎動の減弱
これについては、勘違いしないで欲しいことがあります。胎動が弱くなったり、少し回数が減ることはありますが、胎動がなくなることはありません。赤ちゃんが骨盤の中に入ると動きが制限されて、動きにくくなりますが、動けないわけではありません。分娩時でもゴリゴリ動く子は動きます。胎動は赤ちゃんの元気のサインであることは変わりありません。
これらのことが起きると言われていますが、先ほども言った通り、人それぞれ。
そしてこれから○時間後に陣痛が起きます、とも言い切れませんが、参考にどうぞ。
出産(分娩)の開始
分娩の開始は「陣痛」の始まりからです。陣痛とは、自分の意思ではコントロールでずに反復して起こる子宮筋の収縮です。収縮が起きると痛みが起きるいわゆる「陣痛発作」、収縮が休止すると痛みも落ち着きます、この休止の時間を「陣痛間欠」と言います。陣痛が開始して収まって、次の陣痛が始まるまでの時間を「陣痛周期」と言います。分娩が進行するとその感覚は短く、かつ痛みは強くなります。
「前駆陣痛がある」、「おしるしがある」、「破水した」だけでは分娩の開始とはなりません。
分娩の開始は定義があります。
「1時間に6回以上(陣痛周期が10分以内)の規則的な陣痛が発来したら」分娩開始です。
もし、「あ!10分間隔になった!」と思ってもしばらくして「12分、15分、30分」と間隔があいてしまったらそれは分娩の開始ではなく、先ほどでた「前駆陣痛」なのです。初産婦さんで心配で「10分になりました!」と電話してくる方がいますが、出血が多い、胎動がおかしい、10分どころかずっと痛いなどの異常がなければ少し様子を見てよいでしょう。病院によっては、初産婦さんは7〜8分間隔になってから電話をするように指導するところもあります。そこは病院の指導に従って下さい。ただ、心配ならば電話していいと思いますよ。
みなさん、スマホのアプリで陣痛を図っている方が多いですね。みなさん、出産が終わるととても疲れますので、記憶も朧げ。ですから、スマホに記憶を委ねていいと思います。すごく厳密に管理しているわけではないですので、結構分娩開始の時間は「大体」ということが私の感覚では多いです。
分娩の経過
分娩は大きく3つの時期に分かれます。
①分娩第1期
分娩の開始〜子宮口の全開大
②分娩第2期
子宮口の全開大〜胎児(赤ちゃん)の娩出
③分娩第3期
胎児(赤ちゃん)の娩出〜胎盤の娩出
です。
①分娩第1期の過ごし方
分娩第1期がこの3つの時期の中で一番長く、
初産婦 10~12時間
経産婦 4~6時間
かかると言われていますが、個人差があります。
長くかかるので、ゴールが見えなくて不安になります。
私は出産を「マラソン」に例えます。「マラソン」は「マラソン」でも、「某・あいは地球を救う的なマラソン」に例えます。マラソンランナーは産婦。医療スタッフや家族は、トレーナーの坂●さんやテレビ局のスタッフです。マラソンランナーは産婦だけで変わりはいません。
分娩が始まると、身体は勝手に動き出す(子宮収縮)しますので、その痛みを強めるために体を動かしてもいいですし、疲れたら休息・栄養を取ることも大切です。
・身体を動かす
陣痛の間隔が短くなるように「動いて〜」と言われることがあります。身体を動かしたりすることで、血の巡りがよくなるからか、陣痛は強くなりやすくなるます。私は、「エッサッサ」をやってみよう、と言います。え、「エッサッサ」知らない?
(動きだけでいいです、叫ばなくていいです)足をしっかり開いて。赤ちゃんが下に降りる助けをしてあげましょう。(これは私の経験からの持論です)
血の巡りを良くするのではれば、お風呂に入るということも有効。お湯に浸かることは、痛みの緩和にもなります。

ただし、感染兆候がある、発熱している、破水している、出血が多い、赤ちゃんの心拍観察が必要な場合はできません。
・ペースを考える
これから「24時間走る」のに、最初から100m走のようなスピードで走りますか?当然走りませんよね。「走る」というのは、私からしたら「泣いたり、叫んだりすること」です。特に叫ぶのは体力を使いますし、恐怖になります。恐怖を感じると、ブルブルと私たちの体は硬くなりませんか?恐怖で身体が縮こまると、体だけでなく、同じ筋肉である子宮の入り口も硬くなります。
40週近くまでギュッとしまって赤ちゃんが出ないようにしているので、それが半日程度開くのですから、そりゃ痛いくらいの力が働くだろうな、と私は考えています。
産婦さんは、痛みがきたらなるべく深呼吸をしましょう。なるべくゆっくりのペースで深呼吸。吐き出すことを意識して下さい。吐き出せは苦しくなって吸います。それくらいのペースでいいです。肩の力もなるべく抜いて下さい。体力消費を最小限にしましょう。
家族は一緒に寄り添い、なるべく痛みを軽減するために体勢を整えたり、腰を指圧してマッサージをします。それによっても体力の温存につながりますから、とても大事です。医療者がずっとついていればいいのですが、残念ながら出産が重なるとずっとつくのは難しかったりします、本当に申し訳ない。ですから、家族のサポートはとても大事です。
・栄養を摂る
走りながら栄養を摂る、と考えたら食べやすいものはなんでしょう?うどんですか?食べにくくないですか?それよりも、「おにぎり」とか「バナナ」や「ゼリー」が食べやすくないでしょうか?特にゼリーは保存が効きやすいので、入院セットに入れておけば、夜中の急な入院でご飯が出なくても食べられます。10秒チャ○ジ、2時間キープできるはずです(笑)
・休息
身体が疲れると力が出ないように、子宮の収縮する力も弱まります。それが結果、陣痛を長引かせてしまうことがあります。ですから休むことも大切。陣痛間欠は休むタイミングです。ウトウトでもいいですから、眠ってもいいです。どうせ陣痛がきたら起こされます。その短い時間の休息も大事なので、喉が乾いたら水分をとってもいいし、ご飯を食べてもいいし、寝てもいいのです。リラックスしましょう。好きなアロマの香りを焚いてもいいですし、リラックスできる音楽を聴いてもいいかもしれません。
産婦さんはなかなか休めませんが、家族の人も一緒になって休まない。は正直、無理だと思います。出産後あるあるなのですが、「ご主人が寝ていた。」でイラってしている産婦さんがいます。何時から何分寝ていたかまで覚えている産婦さんも(笑)休まないと、肝心の出産のシーンで寝ていたってこともありますし、判断力も低下してしまいますから、家族の人もうまく休んでほしいです。ですから、一人より二人とかサポートする人がいると休みやすいですね。
ちなみに私のやり方は、産婦さんを壁側に向け、私が腰をマッサージしている隙にボディランゲージで合図を送り、家族(特に夫)を休ませます。大体みんなタバコを吸いに行きますね。本人にとってはリラックス方法なんでしょう。敷地内で吸わなければどうぞ、と私は思っています。
②分娩第2期の過ごし方
子宮口全開大になる頃は痛みがかなり強くなっていますが、子宮口全開大から赤ちゃんが出るまでは、
初産婦 2~3時間
経産婦 1~1.5時間 です。
個人差はあります。私の経験ではもう少し短いという印象です。
この頃になると、だんだん自然と陣痛の時に「いきみ」が出てくるようになります。
「いきみ」は「うんちがしたい」ような感覚です。自然に入ると思いますので、我慢するのは難しいんじゃないかと思うのです。我慢しなさいと言われたら、「努力してします」くらいの気持ちでいいです(笑)。この頃は陣痛発作の時に、お尻の穴あたりが気持ち悪くてしょうがないので、お尻の穴あたりをボールで押してもらうと痛みが緩和しやすいです。疲労もピークでしょうから、ほとんど動けないでしょう。陣痛間欠の時に、水分をとったりウトウトしましょう。発作時については、出産場所・状況によっていろんなやり方があり、いきんで!っていうところ助産師さんもいれば、深呼吸して〜という助産師さんもいます。それぞれに理由や考えがありますので、こう!という言い方ができませんが、助産師さんの誘導に合わせましょう。
分娩第1期末〜分娩第2期頃に破水します(適時破水)。その頃に破水すれば、パンとかバッシャーンと勢いよく水が出ます。破水で分娩が進むことがあります。経産婦さんはそれだけで、一気に赤ちゃんが降りてくることもあります。
<注意>
分娩第1期末〜分娩第2期に破水する。(適時破水)と書きましたが、破水するタイミングは人によって違います。分娩第1期中盤で破水する人もいれば、陣痛が起きる前(分娩前)に破水する人もいます、破水と同時に陣痛が起きればよいですが、陣痛が起きなければ自然に待つ場合もあれば、陣痛を起こす薬を使うこともあります。破水すると赤ちゃんを守っていた膜が破れますので、感染に弱くなりますし、羊水が少なくなることで臍の緒を圧迫されやすくもなります。破水したかも?と思ったら必ず病院に連絡しましょう。
赤ちゃんが降りてくると、赤ちゃんの髪の毛が股の間から触れてきます。もう直ぐです。この頃は、赤ちゃんの頭が股に挟まって痛いのですが、もうすぐ会えますよ。
そして、助産師さんが
いきまないで!!!!
と言ったら、いきまずに深呼吸しましょう。力を入れないように胸に手を当ててもいいです。

そうすると、赤ちゃんが生まれてきます。これが第2期は終わりです。
③分娩第3期
胎盤が出るまでが分娩第3期です。
初産婦 15~30分
経産婦 10~20分
かかります。産婦さんがやることはほとんどありません。医師や助産師に身を任せましょう。赤ちゃんの状態に問題がなければ抱っこさせてもらえるでしょう。

みなさんよくがんばりました。
<写真の使用について>
出産は十人十色
ここまで出産の流れを話しましたが、本当に一人一人分娩の流れは違います。
前駆陣痛を含めて3日間頑張った産婦さん、6cmで破水したらもう頭が見えていた産婦さん、どの出産もみなさん、家族本当にがんばられていました。
よく、「助産師さんありがとうございました。」と言っていただくのですが、こちらこそ、いいお産につかせてもらってありがとうございます、なのです。
あるご家族は分娩第1期に娘(産婦)さんの産痛緩和をされていたお父さん(実父)が休憩されている時に奥様(実母)さんの肩を揉まれていました。娘が生まれる時は立ち会わなかったそうで、「妻が(娘が生まれる時)こんな痛みに耐えていたのか」と尊敬・感謝の気持ちが生まれたそうです。
(もう素敵〜〜〜〜!って心で叫びました。)
私は多い時は月に13件分娩につかせて頂いたときもありましたが、産婦さんにとっては一人目でも二人目でも一生の思い出。ですから、私も私なりに一生懸命サポートをさせて頂いています。
そして、痛みに耐えるという文化が日本は根強いですが、無痛分娩を私は否定しません。無痛分娩は、赤ちゃんが降りてくる感覚がわかったり、出産が恐怖だった経産婦さんはこんなに痛みが違うのか、と感動されていました。そして産後回復もスタスタ歩いていました(笑)
無痛分娩に問題があるならば、多くは技術不足や人員不足など管理側の問題だと私は考えます。これは、安全のために必要なこと。ですから、普及しないことも理解していただきたいと思います。
<参考文献>
竹内正人監修「正常分娩 正常分娩の経過」『病気がみえる vol.10産科第3版』,メディックメディア,2013
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