第8回 産後 母乳育児について

はじめに

 前回は分娩のお話でした。今回は産後のお話をしていきます。
やっと終わった出産、お疲れ様です。よくがんばりました。これから可愛い赤ちゃんとの生活、うふふ〜、となられるかもしれませんが、

すいません。これからあなたは「育児」という長い長いミッションをこなしていかなければありません。

 ところで、あなたは母乳育児を頑張りたいですか?

 母乳育児は経済的にもいいですし、赤ちゃんが欲しがる時に直ぐあげられますよね。それ以外にも効果があります。私は母乳率が高い病院で勤務していたのですが、母乳育児は初めが肝心。

 今回は「母乳育児」について書いていきたいと思います。

母乳で育てると何がいいの?

 母乳育児のメリットについて説明します。母乳で育てることは、赤ちゃんだけにメリットがあるのではなく、母乳を提供するママにもメリットがあります。

<ママのメリット>

1)子宮収縮
 赤ちゃんがママの乳頭を吸うと、その刺激が下垂体後葉まで伝わり「オキシトシン」というホルモンを出します。母乳分泌にも関与しますが、子宮を収縮させる効果がありますので、子宮が元に戻りやすいのです。

2)精神的安定作用
 オキシトシンは「抱っこホルモン」とも言われています。相手と協働したり、穏やかになったり、単純な作業に耐えるなど、精神を安定させます。

3)メタボリック症候群の低リスク
 母乳のカロリーは、65kcal/100cc(成乳)。産後5日くらいで赤ちゃんは50cc×8回くらい飲みますので、母乳だけで260kcalは消費することになります。ということで母乳を産生することは、非常な代謝的消耗を伴うことになりますから、
①体重減少
②HDLコレステロールの増加
(HDLコレステロール=善玉コレステロール)*1
③インスリン感受性の改善*2
があります。

*1 善玉コレステロールは血中の余分なコレステロールを肝臓に運ぶ役割があります。

*2 インスリン感受性とは、インスリンの働き・分泌量が正常にもかかわらず、インスリンが十分な効果を発揮していない状態のこと。改善するということは、インスリンが十分な効果を発揮することになります。

<赤ちゃんのメリット>

1)免疫防御
 母乳にはたくさんの免疫に関わる成分が入っています。その中のS-IgA抗体は、ママが暴露した微生物に対する抗体価で、日常生活下で遭遇する病原菌の感染から赤ちゃんを守ってくれる役割があります。それ以外にも殺菌効果があるラクトフェリンやリゾチームなども入っています。
 母乳育児によって急性中耳炎、下気道感染症による入院のリスクが低下したというデータもあります。

2)メタボリック症候群の低リスク
 母乳栄養児は、成人期のメタボリック症候群の発症や1型・2型糖尿病の発症リスクが人工栄養児に比べて低い。

 ・・・そうでもないですね。(自分のお腹の肉を摘みながら)

*Shinope、生後0日目から涅槃像ポーズで母から母乳を与えられた母乳っこです。

母乳は最初から出ない。

 母乳は赤ちゃんが生まれたらすぐ「ブシャーー!」と出るようになると思っていませんか?正直に言います、「まれにいます・笑」。実は、母乳が勢いよく出るどころか、全く出ない人が多いです。

 第2回で、少しお話をしましたが妊娠中から母乳を作る準備は始まっています。胎盤から出ている「エストロゲン」「プロゲステロン」というホルモンが母乳育児に向けて準備すること、そして「プロラクチン」というホルモンが下垂体前葉から出ています。プロラクチンがたくさん出ても、プロラクチンを受ける「受け皿」にプロラクチンが乗らないと反応しません。その「受け皿」のことを、「プロラクチン・レセプター(受容体)」と言います。この受け皿をエストロゲンやプロゲステロンが抑制しているので、本格的な乳汁(母乳)産生は始まらないのです。

 「なら、出産すると胎盤出るからエストロゲンとプロゲステロン出ないんじゃない?」と思うじゃないですか。

 残念ながら、ホルモンがまだ残っているんです。ですから、直ぐに母乳は出ません。それらのホルモンが抜けるまで2〜3日かかると思ってください。
 「エストロゲン」と「プロラクチン」が減ると、レセプターの抑制が解除され、プロラクチがプロラクチンレセプターと結合し活性化されることで、乳汁産生が本格的に始まります。

 難しい話かもしれませんが、母乳が直ぐ出ないのは異常じゃないんだよ、ってことを覚えてもらればいいです。

じゃあ、なんでおっぱいを吸わせるの?

 「おっぱいでないなら吸わせなくて良くない?」

 産後直ぐから乳頭(乳首)を吸わせるのは理由があります。

 赤ちゃんが乳頭(乳首)を吸うと、その刺激は脊髄から視床下部、下垂体前葉へと伝わり、下垂体前葉から一過性にプロラクチンが出ます。また、同時に下垂体後葉からもおっぱいを乳腺の中から押し出すホルモン「オキシトシン」が出ます。
 産後早期から頻回に乳頭を吸わせることで、血中のプロラクチン・オキシトシン濃度の低下を防ぐのと、プロラクチンレセプターを増やす効果があるのです。母乳が出やすくなるのです。オキシトシンは子宮収縮効果もあるから、その点からも乳頭刺激が欲しいところです。

母乳が出るまでは正直しんどい

「出産より産後の入院がしんどかった。合宿かと思った。」
「おっぱいが出なくてずっと赤ちゃんが泣いていて、しんどくて泣きながら旦那に電話した。」
これは友人たちの体験談。
二人とも母乳育児に熱心な病院(うち一人は私の元・職場笑)で出産しました。
また、別の母乳に熱心な病院で出産した経験がある方は、
「最初しんどいのはわかってる。これを頑張れば後が楽だから。」
という心強い言葉を頂き、産後当日から赤ちゃんと過ごされていました。
(その当時勤めていた病院がミルクを足さないと怒る医師がいたので・笑)

産後疲労が溜まっている中、育児に向き合うのは本当に大変です。
しかもなんで泣いているかわからないし、吸ってもまだ母乳は出てこない、、、。

 心理的なことを言うと、産後の女性が育児に向き合うにはまず自身の身体の回復や出産の振り返り(バースレビュー)が大切です。それから育児に関心がむくようになると言われています。

 ですから最初は体を休めることが大切だと思います。現状では難しいのですが、最初は医療スタッフがおっぱいを介助して後は休むくらいで始まりはいいと思うのです。できなければ、乳頭を自分でマッサージするくらいはできると思うので、休んでいる間、赤ちゃんが吸いやすいように柔らかくなれ〜って思いながらマッサージを時々してください。

もちろん、おっぱいが出てからでも休んでいいんですよ。

 ただ、注意して欲しいのは、母乳が出るようになったら、母乳が乳房内で蓄積されると、抑制因子が出て、乳汁産生が抑制されます。赤ちゃんの必要量にまだ届いていなければ、必要量になるまでは授乳の間隔(2〜3時間以上)はあまり開けない方がいいでしょう。
 

終わりに

 ここまで母乳のお話をしてきました。最初に言った通り、母乳育児は最初が肝心で、場合によっては妊娠中から乳頭のケアが必要な人もいます。母乳のことで産後しばらく母乳外来に通う人もいます。
 ちなみに私は母乳ゴリゴリ推し派ではないです。母乳でもミルクでも赤ちゃんは元気に育つだよ、ということは周囲の経験から知っています。日本のミルクは優秀ですし、水も綺麗だし環境的にはとても良いです。ミルク会社の人も「母乳が一番いい」って言ってくれて、ミルク会社の人もミルク推しってわけではないです。どちらも選べる日本に生まれてラッキーくらい思っています。
 社会も変化し、共働きの世帯も増えました。離乳食開始前に子どもを保育園に預ける人もいます。そうなったときに母乳育児だと、赤ちゃんがミルクを受けつけないというトラブルもこれまでに聞きました。

 母乳育児の人、ミルクを併用した人、いろんな人の話を聞いてみて「自分にあった方法」を選択していただければ、と思います。

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