第10回 産後② 授乳中にとっていいもの・ダメなもの

はじめに

 「〇〇動物園でソフトクリーム食べたんですよね。」

って乳腺炎になったお母さんが訴えてきていて食事指導をしている若い助産師さんがいました。

なんてことしてくれるんや

▒▒▓█▇▅▂∩( ✧Д✧)∩▂▅▇█▓▒▒

私の心の中で激オコ案件ですよ。
もう指導しちゃって帰ったからどうしようもないけど。怒れない私もダメ。
 またある日、部屋を回ると褥婦さんが泣いていて、「どうしましたか?」って尋ねると、

「今日の助産師さんのお話で、フライドチキン食べちゃいけないって言われたんです。私、妊娠中も我慢していたのに、これから何を楽しみにしていけばいいかわからない。」

って。この指導をしたのは同期だったので問い詰めたところ(笑)、「先輩にそう指導しろと言われた。」とのこと。さっきの助産師もこの助産師も当時は未産でした。
 なお、私の友人は毎日ケンタッキーだったそうですが、乳腺炎になりかけたのは、1日2食だったのが、3食になったからと言っていました(笑)
 正直、食べ物と乳腺炎の関係性は証明されていません。というか「関係ない」と私は思っています。授乳によって、ママはいろんなものを我慢しないといけない、と思っているかもしれませんが、必ずしもそうではありません。今回はそんなお話をしていこうと思います。

おっぱいが詰まるってどういうこと?

 おっぱいが詰まるのは、「乳腺炎」を指しているのだと思いますが、「乳腺炎」を起こす誘引として言われているのは、
授乳回数が少ない、効果的に授乳が行われていない、きつい衣服で乳房を締め付けて圧迫するなどして、乳房内から乳汁が排出されなかったり、乳管が閉塞されることにより生じると言われています。
 乳腺炎になると、母乳がしょっぱくなり、味が変わって子どもが嫌がる、なんてこともありますが、乳腺細胞に隙間ができて毛細血管からのナトリウムが移動するからなのです。お母さんがしょっぱいもの食べたからではありません。

甘いものを食べたら詰まる?

 甘いものだけでなく脂っこいものを食べたらおっぱいが詰まるなんて話を聞きますが、乳管の太さは乳頭に近い部分では2mm(2,000μm)くらいです。赤ちゃんが大きくなるためには脂肪分も必要ですから母乳にも脂肪分(脂肪球)が含まれていますが、その脂肪の大きさは2~10μmです。脂肪の大きさは乳管の大きさに比べて1/200~1/1000なのです。しかも、母乳は前半はあっさり、後半はこってりと後半の母乳の脂肪分が多くなります。これは脂肪の大きさが変わるのではなく、脂肪球の数が増えるのです。
 母乳は血液から作られます。ここからは私の意見でありますが、

「食事で詰まるなら乳腺どころかその前の血管で詰まるだろ、ならほぼ毎日カフェオレとファミチキ食べてる私、多分もう死んでる。」
「じゃあなんで産婦人科のご飯あんなに豪華なんだよ、しばらく検食してたら体重めっちゃ増えたんだけど。」

って思っています。人間には「ホメオスタシス(恒常性)」という機能があって、例えば血糖値が上がればインスリンが出て、血糖値を下げて血糖値を元に戻そうとする力があるんですよ、、、それがうまくできなると糖尿病ですね。

それよりもあれもダメ、これもダメとか乳腺炎の恐怖など、ストレスが乳腺炎に関与しているのではないか、と考えます。

 私の母乳外来は時々「愚痴外来」になります。乳腺炎の乳房をマッサージしながらお話を聞きます。私のマッサージは詰まっている原因の栓を抜いたり(つまりが取れた時、すごい快感です笑)、停滞している母乳を出すだけですので、実は搾乳でも同じことはできると思います。ですが、愚痴を言う場ってなかなかないですよね。ですから、私はその愚痴を聞いています。

コーヒーは飲んでもいいの?

 コーヒーなどカフェインを気にしてノンカフェインルイボスティーなんか飲みながら、チョコレートを食べているそこのあなた、

チョコレートにもカフェイン、

入ってますよ?

 カフェインは、コーヒーだけでなく紅茶、緑茶、烏龍茶、コーラにも含まれています。この中で一番カフェイン含有が多いのはコーヒーなのですが、
 カフェインは母乳に100%移行するわけではなく、微量です。
 実は日本ではどれくらいカフェインをとって良いか、という基準が定められていません。しかし2010年のカナダ保健省は「カフェインの摂取量については授乳婦は1日300mgまで」としています。他の文献を読んでも、授乳によりカフェインが移行した場合は、乳児に易刺激性や不眠などの影響が出やすくなりますが、母体のカフェイン摂取量が300mg /日、ならまず影響がないと言われています。
 コーヒーならマグカップ2杯ほど。ミルクチョコレートのカフェイン量はコーヒーの3割くらいです。
 気分転換くらいに飲んでは良いでしょう、もちろん、チョコレートも。

授乳中にビール、飲んでもいいですか?

 先に結論を言います。

よろしくないです。

ですが理由を聞かないと納得できませんよね。ですからお話します。

 アルコールは飲酒後の30〜60分後に血液中の濃度が最大となり、母体の血液中の濃度の90~95%が母乳に移行し、飲酒量の平均2.0±0.2%が移行すると言われています。仮にアルコール5%の缶ビールを1本飲んだ場合、血中のアルコール濃度が0.02%となると母乳中のアルコール濃度も同じになります。乳児がこの母乳を100ml哺乳した場合、0.4mlのビールを飲酒した計算になります。

 母乳中のアルコールが移行すると、乳児はアルコール中毒を起こしたり、凝固系に影響を与え出血傾向になることが報告されています。また、アルコール摂取した授乳中の母親の乳児の哺乳パターンでは、アルコール摂取直後から4時間は、乳首を吸う回数が増えるが哺乳量は減少したという報告もあり、アルコールを摂取した、30〜60分間は、明らかに母乳からアルコール臭が検出されたそうです。

 乳児の肝臓機能は大人に比べて未熟ですから、乳児がアルコールに暴露されることは大人よりもリスクがあることを理解してください。

タバコは吸っていいの?

 喫煙はそもそも母乳分泌に影響を与えます。喫煙後は乳汁産生を行うホルモンである「プロラクチン」の分泌が減少することが報告されています。喫煙している母親は、出産後2週では非喫煙者の母親よりも母乳分泌が少なく、出生後4週に至った時点で減少していくことも報告されています。
 
 喫煙妊婦の初乳中ニコチン濃度に関する研究では、ニコチンが容易に母乳へ移行することが明らかとなり、最終喫煙から採乳(母乳を採取すること)での所要時間が30分以内では、母乳中のニコチン濃度が64ng/dlと高濃度でした。そして喫煙後にニコチンが母乳に移行する時間は30分以内であり、ニコチン代謝時間は約2時間程度であることも明らかになりました。
 また別の研究では乳児の睡眠時間にも影響を与え、喫煙授乳婦の乳児の総睡眠時間が有意に減少していました。
 ですが、喫煙していても母乳を与えた方が人工乳を与えるよりも児の呼吸器疾患が有意に少ないとする研究もあります。

 アメリカで小児科学会では、母親が喫煙していても児が罹患しやすい呼吸器疾患予防のために、母乳育児を推奨すべきとしています。

 喫煙の習慣は長ければ長いほど、禁煙が難しくなります。急に辞めることは難しいですが、代謝時間が2時間程度ですから、授乳前の喫煙を辞め、喫煙後は授乳まで2時間以上間隔を空けるなどの工夫ができるといいですね。

 ですがそもそも、妊娠中・出産後の母体の喫煙、また出生後の受動喫煙は、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク因子の一つです。新生児の部屋で喫煙者がいた場合のSIDSの発症リスクは3.67、2~4人の場合のリスク比は20.91との報告があります。なぜこんなことを書いたかというと、

周りが辞めないのに、女性一人だけが辞められないでしょ。

と言いたいのです。アルコールにしても喫煙にしても女性一人だけでの問題でなく、家族の意識も変えていく必要があります。
 
 授乳をしているママたちばかりが敏感になるのではなく、男性も意識して欲しいな、と私は思います。

<参考文献>
立岡弓子著「乳房ケアのエビデンス」日総研出版,2013
堀内成子総編集「エビデンスをもとに答える妊産婦・授乳婦の疑問92]南江堂,2015
水野克巳・水野紀子「ペリネイタルケア 第35巻3号 特集 Dr水野に学ぶエビデンスに基づいた母乳育児〜母乳育児は山登りと同じ〜」メディカ出版,2016

コメント

タイトルとURLをコピーしました