「無痛分娩と日本人」を読んで

 

「ツイッターでみた本が面白そう!」ということでアップされていて紹介した本人より前に買って読んでしまいました・笑 アマゾンで頼んだら思ったより薄くて、え?と思ったんですが、内容は的を射ているというか、充実していて「無痛分娩について日本人はどうして否定的な感情を持つのか」ってことが歴史を含めて書かれてあり、面白かったので紹介します。少しネタバレしてしまうかもしれません。ご注意ください。

無痛分娩の歴史は思ったより古かった

 この本によると無痛分娩は戦前からあり、なんと!あの!情熱的で『みだれ髪』的な歌人!も無痛分娩での出産経験があるということを知りました!彼女は12人の子を出産しています。そのうちの2人が無痛分娩だったそうです。まぁ、当時は硬膜外麻酔なんてないでしょうから静脈麻酔のようですし、麻酔が児にどれくらい影響があったんだ?とか疑問はあるんですが、彼女は無痛分娩後の産後経過を著作の中で述べており産後10日で職場復帰したんだとか。

助産師と保健師助産師看護師法

 「助産師」という職業については、昭和23(1948)年に制定された「保健師助産師看護師法(保助看法)」に規定されています。
 「助産師」とは、「厚生労働省の免許を受けて、助産又は妊婦、褥婦もしくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子」と法律では規定されています。ここで、この法律でいう「助産」とは、分娩開始から終了までの正常分娩の介助、分娩に付随する内診、臍帯切断などの処置、及び産婦・新生児の世話をいいます。
この「助産」という行為は、「医師」もしくは「助産師」でないとできません。(これを業務独占と言います。)
 そしてこの法律では助産師の業務は、正常な妊産婦を中心にケアし「妊婦、産婦、褥婦、胎児または新生児に異常があると認めたときは、医師の診療を求めさせることを要し、自らこれらの者に対して処置をしてはならない。ただし臨時応急手当については、この限りではない。」としています。
 正常な分娩経過であれば医師の立ち会いなく助産師の介助で出産は法律的にはOKなのです。ただ、いつ母子ともにいつ急変するかわかりませんから、どこの病院やクリニックでも医師立ち会いのところが多いでしょう。手袋をして手を握ったまま、助産師の分娩介助を見守っていることもあるかもしれません。それは正常な分娩経過だからこそ、助産師に任せているのです。
 助産師は、吸引分娩、鉗子分娩の実施はできませんし、硬膜外麻酔の挿入もできません。ですから、助産師は自身の職能を生かすためにも自然分娩を手放すわけにはいかなかったのです。

私も医師の介入が嫌だった時期がある

 以前勤めていたクリニックでは、「医師」の中心の医療が行われていました。医師の都合で、人工破膜(破水させること)や陣痛促進剤でお産を早めようとしたり、逆にお産を長引かせたり。中には、「この帝王切開必要?」と思うことが何度をありました。この自己中心的な分娩介入が嫌で、分娩ギリギリまで医師を呼ばなかったりすることもありました。そしたら、赤ちゃんの肩がなかなか出てこなくて焦ったこともあせり、医師から注意を受けたこともありました。最終的には、医師への不信感から辞めましたが。
 それ以外のクリニックでもルーチンとして内診を求めたりして、自分が習ったものとは違うことに違和感を覚えたことはあります。

無痛分娩に立ち会って

 なんだかんだで無痛分娩から逃げていたのですが、とうとう当たった時がありまして。それは経産婦さんでした。陣痛が強くなって産婦人科医自ら麻酔を挿入して麻酔を入れたらすっかり痛みはなくなって、点滴で陣痛を強めても平気でただ、麻酔がキレると苦しみだすので医師の指示のもと麻酔を追加する、というのを2回くらい繰り返したら、赤ちゃんは降りてきていよいよお産となったとき、産婦さんはいきむことができないので、お腹を押されました。(クリステレル圧出法)産婦さんは「やめて」とお腹を押す手を握って抵抗しましたが、押したことで出てきました。最後の最後で押されたことでぐったりしていました。それを見たときは「何だかなぁ」と阿藤快ばり心の中でずっと行っていたのですが、

 職場が変わり、麻酔も麻酔科医が入れて麻酔投与量も前と違うと(笑)、無痛分娩のイメージは変わりました。無痛ではなく和痛(痛みを和ませる程度)で、同じように経過を見ていると、産婦さんが「あ、今降りた感じがします。」といって、心音位置も変わったので診察すると本当に赤ちゃんが降りてきていて、すこーしだけお手伝いしましたが、自分でいきんで出産となりました。その産婦さんはずっと冷静でいらっしゃったので、そこで無痛分娩へのイメージは変わりました。経産婦さんは、結構いい感じに無痛分娩は進みやすいですね。それがよくわかっていなかったので、陣痛が間延びしたらすぐ医師に「促進剤」と言っていたら、「無痛なんやけん、ゆっくりになるのわかってるやろ。」と怒られました。すいません・笑
 ただ、介入が遅れ分娩が遷延(長引く)したことで弛緩出血(子宮がうまく収縮できず、出血が増える)が起きたこともあります。私はそこで、応急処置として初めて双手圧迫で止血を行いましたが、イメージトレーニングしておいてよかったな、と思いました。

安全への問題

 無痛分娩の娘亡くした遺族、「被害者の会」結成へ

 2017年に大阪で無痛分娩による産婦の死亡事故がありました。これにより無痛分娩へのイメージが変わってしまったかもしれません。筆者によると、日本と諸外国では出産場所が大きく違うようで、日本では病院やクリニックでの出産が主ですが、一方で分娩を扱う施設の集約化が進む諸外国などでは、妊婦健診はクリニックが行い分娩は大学病院など、センター規模の医療施設で行われているそうです。それにより諸外国のバースセンターには麻酔科医が24時間常駐しているんだそう。ところが、日本はクリニックに産婦人科医一人常駐で麻酔を兼務しているところもあります。医師の研修には私は詳しくありませんが、勤めていた病院では産科医が麻酔科で研修をして学んでいました。ですが、通常、麻酔を入れるのは麻酔科医。開業医はどこで経験を積んでいるんだろう、と疑問に思ったこともあります。

 また人員の問題があります、マンパワー不足です。自然陣痛から無痛分娩に、ということに対応できる病院・クリニックはなかなかないのではないでしょうか。私がこれまでいたところも、予約制で計画出産を行っていました。計画的なお産は良いのですが、他の方の出産は待ったなしです。より観察力や判断が必要だと感じていますから、無痛分娩は目が離せません。そこに人手を取られるだけでてんやわんやするようなマンパワー不足の施設も実際あります。(私、激しくうなづく)

無痛分娩での助産師の役割

 筆者は著書の中で

「自然でも無痛でも」、
出産する人を支援するのが助産師なのです。

と述べています。私は数回の無痛分娩介助経験を経て、無痛分娩に対しては「否定」的ではなくなりました。自然にしても無痛にしても求められるのは、「観察力」「判断力」です、私たちは産婦が安全な分娩が行えるよう「医師」と協力しながら「助産」することに変わりはないと考えます。

 終わりに

 この本で「無痛分娩」の歴史を知ったり、「無痛分娩」に対する考えを産婦自身だけでなく、助産師、医師(産科医・麻酔科医)にもインタビューしていてそれぞれの考えや思いを知ることができました。まぁ、全員同じ考えではないと思いますが。60ページ程度の本ですが、読み応えがありました、オススメです。
 もし、「無痛分娩」を考えている人がいたら、周りからいろんなことを言われて戸惑っているかも。なんでそんなことを言われるんだろう、の歴史や文化を知ることができるので、一般の方でも読んでみるのも良いかもしれません。

<参考>
1)https://ja.wikipedia.org/wiki/与謝野晶子
(閲覧日:2019年10月30日)
2)福井トシ子編『新版 助産師業務要覧 第3版 Ⅰ 基礎編 2019年版』日本看護協会出版会,2019年

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