前回は妊婦健診の回数と助成について説明しました。
ちなみに平成28年4月時点で妊婦一人あたりの公費負担状況は全国平均で105,734円。助成がなかったらこれ自己負担になるって考えると、助成があってよかったです。
さて、今回はその妊婦健診の「内容」について説明をしていくのですが、やっぱり長くなりますね・笑なので、3回以上に分ます。
今回は、妊婦健診時に毎回行われる検査(超音波検査は除く)と、妊娠初期に行われる血液検査についてです。長すぎて、全部読むと疲れると思いますので(笑)気になる検査項目の説明内容を「もくじ」で見つけてください。妊婦健診は「超音波検査」だけじゃなく他にも大事な検査がいっぱいあります。
もくじ
1.基本検査
妊婦健診は、毎回実施する基本的検査と妊娠時期に応じて行う検査があります。
・血圧
妊娠の影響で高血圧となることがあります。また、元々高血圧だった人が妊娠により血圧がさらに上昇することも。健診時に測定することで血圧の変動を確認します。
安静時に測定してくださいね。(たまに、急いで健診にきて息が上がったまま測定される人がいますが、血圧上がりますよ・笑)
・尿検査(尿糖・尿タンパク)
妊娠糖尿病になると、尿中に糖分が出たり、血圧上昇によって腎臓に負荷がかかることで尿からタンパクが出ることがあります。また、つわりで食べることができないと尿中にケトンという物質が出ます。
・体重
体重については、↓の回で説明しています。体重増加不良がないか、過剰体重増加がないかチェックします。
・腹囲と子宮底長(子宮の大きさのこと)
こちらは胎児の大きさや羊水の量の目安となるので計られますが、日本の多くの病院では、毎回の妊婦健診で超音波検査が行われています。超音波検査の方が胎児の大きさや羊水量は把握できるので、病院によってはこの項目が実施せず、母子手帳にも腹囲・子宮庭長さの項目を超音波検査の項目に変えているところもあるようです。子宮底長1回測定しても、前回との比較ができないからあまり意味がないのでは?と私は思います。
・浮腫(むくみ)
妊娠中は子宮が大きくなることで下肢の血流が悪くなったりすることで浮腫(むくみ)が出やすくなります。ですから、浮腫が出ているからと言って必ずしも異常というわけではあります。
妊娠により高血圧になる、もしくは高血圧が悪化することを妊娠高血圧症候群(HDP)と言いますが、はるか昔(って書いたら怒られますかね・笑)「妊娠高血圧症候群」は「妊娠中毒症」と呼ばれていました。(2004年に変更)妊娠中毒症の診断基準に浮腫がありましたが、現在は妊娠高血圧症候群の診断基準から浮腫は外れました。ですが、妊娠高血圧症候群の方の症状として腎臓に負荷がかかり浮腫(むくみ)は現れることがありますので、注意はしていきます。塩分の摂取し過ぎもむくみの原因となりますから、塩分は「なるべく」控えましょうね。

2.妊娠初期に行う血液検査
妊娠初期に行う検査は下記の検査であり、1回の血液検査で多くのことがわかります。
そして、これらの検査は公費負担となっている検査でもあります。
血液型(ABO式、Rh式、不規則抗体)
血液型を調べる目的は2つあります。
1つは、輸血に備えるためです。
たまに生まれた時の血液型調べたのと今回検査したら違ったって話を聞きます。生まれた時ってあまり安定しないのでそういうことあります。出産時に大量の出血をすることがあります。ほんとこれが怖い。これまでの助産師人生で何人輸血のお世話になったことか。輸血をする際に血液型が一致していないと、身体の中の抗体が輸血の赤血球を攻撃してしまい、状態が悪化最悪死亡することがありますので血液型を調べます。また、Rh式でも、Rh(-)の人にRh(+)の血液を輸血すると先ほどと同じように攻撃してしまいます。日本人はRh(+)の人が99.5%。Rh(-)の人はレアなので輸血が必要な時大変です。
実は私の祖母はAB型のRh(-)だったのですが、輸血が必要なときは沖縄から空輸していただいたそう。もう祖母は10年前に亡くなりましたが、沖縄のAB型Rh(-)の方、あの時はありがとうございました。
2つ目は、子どもへの影響です。
血液型不適合妊娠といいまして、Rh(-)の女性がRh(+)の子を妊娠すると、抗体が産生されます、この子には影響がないんです。ですが、次の子もRh(+)だと前の子でできた抗体が次の子の赤血球を攻撃してしまい胎児貧血や胎児水腫になってしまいます。なので、Rh(-)のママが子どもを出産したら、子どもの血液型を調べます。調べた結果Rh(+)であるならば、免疫グロブリンという注射をママにします。それによって抗体を作らせないのです。Rh(-)同士のカップルな子どももRh(-)なので問題ないんでしょうけど、さっきもいった通り、日本人の多くはRh(+)なので、そんなカップルは超レアですね。握手してもらいたいくらいレアです。
不規則抗体というのは、血液型をABO式以外で細かく分類したと思ってもらっていいでしょう。この不規則抗体は母体から胎盤を通過し、胎児の赤血球に影響を与えます。それによって胎児・新生児溶血を起こす可能性がありますので、詳しく調べたり、出産後赤ちゃんの黄疸に注意したりします。(溶血すると黄疸が強くなります)
B型肝炎抗原検査
B型肝炎ウィルス(HBV)に感染しているか検査します。もし妊婦に感染が認められれば、母子感染を防ぐために出生後赤ちゃんにB型肝炎ワクチンを摂取する必要があります。B型肝炎は血液・体液を介したB型肝炎ウィルスの感染によって起こります。性行為による感染の場合もあれば、B型肝炎ウィルス(+)の母体から母子感染もあります。B型肝炎ウィルスに感染していても肝炎を発症していない(そのような人を『キャリア』と言います。)なお、B型肝炎ウィルスは授乳で感染することはありません。

C型肝炎ウィルス抗体検査
妊婦のC型肝炎ウィルス(HCV)感染の有無を調べ、母子感染をできる限り防ぎます。抗体検査が陽性であったら体内のC型肝炎ウィルス量を調べます。(HCVーRNA定量検査)なぜかというと、HCVーRNA定量検査がマイナス(検出されない)のであれば感染の既往者(過去に感染はしていたが今は体内にウィルスはいない)で感染の心配はないですが、HCVーRNA定量検査プラスであれば、『キャリア』であり、母子感染のリスクがあります。HCVは主に母子感染で、性交渉で感染することは稀です。また、母乳栄養と母子感染に関連がないことがわかっていますから、授乳もできます。妊婦がキャリアの場合、母子感染率は約10%で、母子感染したとしても約30%の児は3歳ごろまでに自然に血液中のウィルスが消失します。もし3歳以降も感染していればC型肝炎ウィルスに対する治療を行います。
HIV抗体検査
HIV(ヒト免疫不全ウィルス)感染の早期診断し、感染を知らないまま日常生活で周囲へ感染してしまうことを防止します。HIVに対しては効果的な薬剤が開発されたことで、HIV感染者のAIDS(エイズ・後天性免疫不全症候群)発症を長期間に抑制できるようになっています。
梅毒血清反応検査
梅毒は、近年問題となっている性感染症。梅毒トレポネーマという病原体に感染して起こります。
日本での梅毒の全体患者数は1999年〜2012年は年間500~800例で推移していたのですが、2013年には1,200例を超え、前年の1.4倍に増加したと報告されました。
2018年第1週〜2019年第39週までの梅毒感染の報告例は、8,644例。*1
梅毒に罹患した女性の80%が生殖可能年齢で、妊娠している場合は児への経胎盤感染が問題となります。妊娠中の梅毒感染は未治療の場合、児の周産期死亡(40%)、流早産、低出生体重児、先天奇形、先天梅毒という影響があるため、早期に感染を発見し治療することが必要となります。
梅毒の検査は2種類あり、トレポネーマ抗原検査(TPHA)法と非トレポネーマ抗原検査(STS)法があります。
TPHA陰性 | TPHA陽性 | |
STS陰性 | 正常/初期感染 | 陳旧性梅毒 |
STS陽性:8倍以下 | 感染初期/生物学的偽陽性 | 活動性梅毒/陳旧性梅毒 |
STS陽性:16倍以上 | 感染初期/生物学的偽陽性 | 活動性梅毒/陳旧性梅毒 |
陳旧性梅毒とは治癒状態の梅毒です。
梅毒に一度なるとたとえ治癒してもTPHAは生涯陽性となります。
偽陽性とは、陰性であるにもかかわらず陽性(梅毒感染していないのにSTSが上昇する)となること。この偽陽性を認めやすいのは、妊娠・老齢・感染症・悪性疾患・膠原病で、抗体価8倍以上は稀と言われています。
STS陽性でTPHA陰性の場合、梅毒感染後4週間は陽性にならないので、TPHAが陽性になっていないかどうか再検査の必要があります。
治療対象は、STS陽性で、THPA陽性の人です。
未治療であれば赤ちゃんへの感染のリスクは70%以上ですが、治療をすることでそのリスクを1〜2%まで低下させます。性感染症であるため、パートナーが感染していないか診察を受ける必要があります。
*1)https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/syphilis/2019q3/syphilis2019q3.pdf
(閲覧日:2019年11月15日)

風疹ウィルス抗体検査
風疹については、結構メディアでも取り上げられているので知っていたりすでに予防接種を受けていると大変ありがたいのですが、妊娠初期の女性が風疹に罹患すると、胎児感染により白内障や緑内障などの眼症状、先天性心疾患や感音性難聴を示します。これを先天性風疹症候群(CRS)と言います。
CRS発症リスクは妊娠初期が最も高く、
感染時の妊娠週数が
4〜6週で100%
7~12週で80%
13~16週で45~50%
17~20週で6%
妊娠20週以降でのCRS報告は0%です。
また最終月経前の発症でもCRSの発症は認められません。
風疹は2013 年(14,344 人)の流行以降、2014 年 319 人、2015 年 163 人、2016 年 126 人、2017 年 91 人と減少傾向でしたが、2018 年は 2,946 人が報告され、2019 年は第 44 週時点で 2,256 人 が報告されています。
風疹のワクチン接種は、令和元(2019)年11月時点で
40歳7ヶ月〜57歳7ヶ月の女性は中学生の時の集団予防接種でワクチンを接種しているのですが、その対象が「中学生女子」が対象であったため、40歳7ヶ月〜57歳7ヶ月の男性はワクチンを接種しておらず、風疹の流行の中心となってしまいました。そのため、この年齢の男性で風疹抗体価が8以下の人は、定期接種としてクーポンが発行されます。(2019年〜2022年3月)
32歳1ヶ月〜40歳7ヶ月未満の男女は、ワクチン接種方法が12歳以上16歳未満で個別接種となりましたので、ワクチン接種率が低いです。私がこの世代で、乳児の時に風疹にかかったと聞いていたのですが、看護師として入職した際の雇用時健康診断で見事に風疹の抗体がなく、予防接種しました。
29歳7ヶ月〜32歳1ヶ月未満の男女は、幼児期に個別接種であったためこちらも接種率が低いです。
小学生〜29歳7ヶ月未満の人は2回接種しているので風疹に感染しにくいはずなのですが、実際は感染者がいます。感染者のワクチン接種歴を見ると、「接種歴なし」もしくは「不明」の方が多いです。
ワクチンについて害を訴える人がいますが、
風疹はワクチンで予防可能な感染症です。
HTLVー1 抗体検査
HTLVー1は、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)やHTLVー1関連脊髄症(HAM)などHTLVー1関連疾患を発症させます。HTLV-1キャリアおよび関連疾患は、我が国では九州・沖縄地方を含む南西日本に特に多く見られます。
実際10年前、私の地元(九州の田舎)でもちょこちょこいらっしゃいました。2008年度〜2010年度の厚生労働省の研究班の調査では、九州・沖縄地方のキャリアの割合が減少している一方、関東地方と近畿地方の大都市圏での増加が示され、我が国HTLV-1キャリアは依然として多数存在し、全国に拡散する傾向があることが指摘されました。
HTLV-1の主な感染経路は母子感染(垂直感染)、性感染(水平感染)および輸血の3つですが、献血者の抗体スクリーニングが開始されて以降は母子感染が主要な感染経路と考えられています。
AT LやHAMの予後の向上は十分でなく、ワクチン開発されていないため、現時点では母子感染予防が最も効果的であると考えられています。これまで、B型肝炎・C型肝炎は母乳育児と感染は関係ないと言いましたが、このHTLVー1は母乳を介して感染します。
全妊婦に対してスクリーニング検査(PA法またはCLEIA法)が行われますが、この検査で陽性であっても偽陽性で場合であることも多いので、WB法という検査で確認検査を行います。WB法で陽性であればHTLV-1キャリアとなります。WB法で「判定保留」となった場合はPCR法という方法で「陽性」「陰性」を判断します。
HTLV−1の母子感染予防法として根拠があるのは、人工乳のみですが、人工乳のみでも3〜6%の母子感染率があります。それ以外にも短期母乳栄養や凍結母乳栄養などの選択肢がありますが、利点・欠点についてはじっくりと医師から話を聞いて栄養方法を決められた方がいいでしょう。
<参考>
1)山崎峰夫 監修「妊娠高血圧症候群」『病気がみえるVol.10 第3版』、メディックメディカ、2013年
2)ペリネイタルケア編集委員会『妊婦健診と保健指導パーフェクトブック』メディカ出版、2016年
3)『国立感染症研究所』https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
(閲覧日:2019年11月15日)
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