第15回 妊娠⑥ 妊婦健診-3

 前回は、妊婦健診の基本項目と妊娠初期に行われる血液検査の説明をしました。今回も血液の検査なんですが、これは妊娠によって起こるある『病気』を早期に発見するためです。
ところでこれを読んでいる皆さんは出産時何キロで生まれたか聞いたことがありますか?私は3290gでした。なんで知っているかと言いますと、

母子手帳は現在行方不明なんですけど、写真だけが残っています。
一応、ヌードなのでモザイクはかけています。
35年前なので秤(はかり)がアナログですね!
私は確か分娩予定日近くに生まれていたので、これくらいの体重はまぁ「普通かな」という印象。

 私、これまでの助産師やってきて経膣分娩で出てきたお子様の最高体重は4300g台でした。4000g台も一人ありました。どちらも経産婦さんの出産でスルッとは生まれてきましたけど、頭が出てきた瞬間から「大きいなぁ!!」という印象でした。

在胎週数(生まれた時妊娠何週だったか)と体重を見て、同じ週数の子に比べて「大きいか」、「小さいか」、「大体同じくらいか」という分類があります。
その中で、在胎週数に比べて大きいと判断された子(L F D -large for dates )たちは、胎内で大きく育った原因の一つとして「母体の糖代謝異常(高血糖)」状態が原因であることがあります。

 母体が糖代謝異常となる原因は、
「妊娠糖尿病(GDM)」「妊娠中の明らかな糖尿病 」「糖尿病合併妊娠」です。
ちょっとややこしいんですね。
「妊娠糖尿病(GDM)」とは妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常です。

診断が目的というよりも、
糖代謝異常で高血糖状態である妊婦の血糖値のコントロールすることが優先的な目的でしょう。

糖代謝異常があるかどうかは随時血糖検査75g OGTTという検査でチェックします。

妊娠初期の血糖検査

随時血糖検査(妊娠初期)

この検査は妊娠初期に行われます。随時血糖とは、食事をいつ食べたか気にせずに測定した血糖値のことをいいます。この時点で血糖値が、

95 or 100 mg/dl
ならば現在のところは大丈夫だけど、妊娠経過で血糖値コントロールがうまくいかなくなることがあるから、妊娠24〜28週くらいに検査するよ。ということになります。

95 or 100 mg /dl 以上だけど 200mg/dl 未満
ならばもしかしたら血糖のコントロールがうまくいっていない可能性があるので、少し負荷をかけて検査をします。それが75g OG T Tという検査です。

75g OGTT

この検査を行う際は、検査の12時間前から絶食し、検査前・検査中も検査薬(炭酸水)以外のカロリーがある飲み物は飲んではいけません。(だからお茶とかはOK)
この検査では、空腹時血糖値を測定した後に、ブドウ糖が入った炭酸水を飲むよう指示されます。それを飲んでから1時間後2時間後の血糖値を測定します。

もし、ここで
空腹時血糖値が 92mg/dl未満
1時間血糖値が 180mg/dl未満
2時間血糖値が153mg/dl 未満
この項目を全て満たすなら、
「現在のところは大丈夫だけど、妊娠中期にもまた検査するね。」
(95or 100mg/dlと同じ)という状態になりますが、
もし、この3つの項目のうち一つでも基準を超えているなら、妊娠糖尿病(GDM)と判断されます。

ですがもし、2時間血糖値が200mg/dlを超えるのであれば、HbA1cという血液検査をします。そこでHb A1cが6.5%以上であるならば、「妊娠中の明らかな糖尿病」というと判断されます。

先ほどの随時血糖値が200mg/dlを超えている人は、75g OGTTはせず、「妊娠中の明らかな糖尿病」か「妊娠糖尿病(GDM)」か判断する検査をします。
もし下記の1項目でも当てはまるのであれば、「妊娠中の明らかな糖尿病」と判断されます。
1)空腹時血糖値 が126 mg/dl以上
2)HbA1c値 が6.5%以上
3)確実な糖尿病網膜症(糖尿病によって目の血管に異常をきたしている)

妊娠中期以降の血糖コントロールの変化

 妊娠初期で血糖検査をクリアしても、妊娠20週くらいになると妊娠中にでるホルモンの「ヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)」が増え、インスリンの抵抗性が上がります

妊娠しておらず糖尿病がない通常の場合は、食事によって血液中の糖分が増える=血糖値が上がります。血糖値が上がると、膵臓から「インスリン」というホルモンが出て、血液中の糖分を筋肉や脂肪細胞に取り込ませ、血糖値を下げ一定の範囲内に下げます。

ですが妊娠した場合、胎児が大きくなるためには母体の糖分が必要になります。赤ちゃんは当然ですが、自分で食べたりエネルギー分を自ら作ることができませんから、妊婦の血液中から胎盤を通じて送られる糖分に頼るしかないのです。

母体から胎児に糖分を送るために、hPLはインスリンによって筋肉や脂肪細胞に糖分が送られ血糖値下げることを邪魔します。インスリンの作用に対して、抵抗し血糖値が下がっていない状態が「インスリン抵抗性が上がっている」ということ。それによって、血液中の増えた糖分は胎児に送られ、赤ちゃんが成長していきます。

ですが、このインスリン抵抗性が強すぎて高血糖状態が続くのも問題です。

糖尿病が血管を傷つけたり、アシドーシス状態になるように、母体にも影響が起こります。のちの糖尿病につながることもありますが、流産・早産の原因になったり、血管の障害によって赤ちゃんに栄養や酸素がうまく供給されないことで赤ちゃんの成長が悪かったり、最悪赤ちゃんが妊婦のお腹の中で亡くなってしまうこともあります。
 
そして、母体の血糖値が高すぎるとそのまま糖分は胎児にいきます。当然ですが、胎児の体にも膵臓はあります。生まれる前にも胎児の膵臓はインスリンが出ていますが、胎盤を通じてどんどんたくさんの糖分が送られるので、インスリンがたくさん出ています。インスリンの働きでたくさん送られた糖分はグリコーゲンや脂肪やタンパク質の合成が促進され、赤ちゃんがどんどん大きくなります。ムッチムチになりますね。

ですが生まれると胎盤から通じて送られていた糖分補給が一気になくなるのに、赤ちゃんの膵臓はインスリンはたくさん出ていることが通常運転のようになっていますから、出生後すぐに赤ちゃんは低血糖になりやすくなります。

妊娠中期の血糖検査

インスリン抵抗性が上がり、血糖コントロールがうまくいかなくなっていることがありますので、妊娠中期(妊娠24~28週)にも血糖値の検査を行います。
この時の検査は、
妊娠初期の時と同様の随時血糖検査もしくは50g GCT
という検査をします。
ガイドラインでは、随時血糖検査もしくは50gGCTのどちらかでよいとしています。

随時血糖検査

随時血糖検査は妊娠初期と同様で、基準を超えれば75gOGTTという流れは同じです。

50G GCT

この検査は75gOGTTと似ていて糖分が入っている炭酸水を飲むのですが、測定前の食事制限はありません。
指示された糖分の入った炭酸水を飲んだ後1時間で血糖の検査をします。ここで血糖値が140mg/dlを超えていたら、75g OGT Tの検査になります。

血糖のコントロール

もし、「妊娠糖尿病(GDM)」「妊娠中の明らかな糖尿病 」「糖尿病合併妊娠」であるならば厳格な血糖管理が必要となります。
食前100mg/dl未満、食後2時間120mg/dl未満を目標に管理し、1日に頻回の血糖測定が必要となります。血糖コントロールの方法は、食事療法インスリン療法となります。食事管理で血糖コントロールが上手くいかなければ、インスリンでコントロールしていきます。インスリン療法の場合、分娩時にも血糖管理は必要で、点滴による糖分投与やインスリン投与が必要となります。ですが、分娩時は痛みでそれどころじゃないでしょうから、その際は医療者が管理する必要があります。

<参考>
1)杉山隆 監修「糖代謝異常合併妊娠」『病気がみえるVol.10 第3版』メディックメディカ、2013
2)ペリネイタルケア 編集委員会『妊婦健診と保健指導パーフェクトブック』メディカ出版、2016年
3)http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=3
  (閲覧日:2019年11月16日)
4)https://dm-net.co.jp/jsdp/information/024273.php
  (閲覧日:2019年11月16日)

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