もくじ
はじめに
入院中、ママさんが授乳しながら泣いていたことがあります。
「わからないんです、わからないんですけど、涙がでて。」
もしかしたら同じ経験をした方がいませんか?
妊娠・出産は身体だけに影響を与えるのではありません。
みなさんの「心(こころ)」にも影響を与えます。
実は「心」の問題はみなさんが思った以上に深刻になることも。
ですから、今日は「心」についてお話ししようと思います。
マタニティブルーズって
「マタニティブルーズ」を皆さんは知っていますか?
マタニティブルーズとは、出産後に一過性に生じる軽度の精神的変調です。先ほどのように理由もなく涙がでる、ささいなことで泣いたり、イライラして怒ったかと思えば、自信を失って落ち込んだりと気持ちがコロコロと変わりやすく、集中力が低下したり、眠れないといった症状があらわれますが、「病気」ではありません。全員に現れるわけではなく、日本では25%の頻度で生じます。

産後うつ病
マタニティブルーズと思っていたが、「産後うつ病」だった場合もあります。あんなに明るかった産婦さんがびっくりするくらい落ち込んでいたことも。「うつ」状態は誰でもなるリスクがあります。
マタニティブルーズは1〜2週間で改善されますが、うつ病は2週間以上続きます。2週間以上とは書きましたが、気分の落ち込みが1週間でも「死にたい」とか「子どもを殺したい」という感情が生まれることは異常だと考えます。
ですが、「うつ」は必ずしも「産後」に始まるわけではなく、妊娠中からも「うつ」を認めている人もいます。ですから、妊娠期も含めて「周産期うつ病」とも呼ばれています。産後うつと言いますが、男性や非妊娠女性がなる「うつ」と違いはありません。
私たちの「心」は、心臓にあるのではなく「脳」にあります。うつ状態である時は、気合でどうこうできる問題ではありません。そもそも気合出すための神経伝達物質が出ていないのです。
そして「心」の問題は、周産期特有の心理的な問題、社会的な問題は産後うつ病の危険因子となります。産婦人科はそのような心理的な問題や社会的な問題を把握していても、産婦人科だけでのサポートでは限界があります。ですから、必要に応じて保健師などの行政側も関わりサポートしていくよう体制づくりが各自治体で行われています。
EPDS
「何でできないんだろう」、「うまくできないのは、自分の努力が足りないから」と「うつ」になっていることに本人が気づいていないこともあります。産後うつ病のスクリーニングのために、EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)という質問用紙を書いてもらうことがあります。産後の健診などで見る・見たことがあるかもしれません。質問内容はあえて書きませんが、EPDSで9点をとると陽性としています。ですが、それで「うつ病」と診断されるわけではありません。そういうのに答えたくない人もいます。
ですが、おそらく自分にかまっていられない忙殺されそうな育児から少しだけ離れて、自分自身もその用紙に素直に答えて、何でこんな気持ちを持ったんだろう、と「自分を客観的に」見つめ直すのも良いのではないでしょうか。
薬の服用
精神疾患を妊娠前から抗精神薬などを内服している女性もいるでしょう。そのような女性は妊娠したり、出産を機に薬を自己判断で中断されることがあります。薬の自己判断による中断は、精神症状の悪化させ、生活や育児機能の低下などにも繋がります。大事なのは「相談すること」です。抗精神薬の中には、妊娠中や授乳中でも内服ができるものがあります。担当医師と相談して見ましょう。
また、育児のサポート体制を充実させることで育児による負担を減らすことも大切。どのような公的サポートが得られるのか、保健師に相談してみるといいかもしれません。

終わりに
育児に対して「しっかりしないと」とママたちは頑張りがちですが、
「100点を目指さなくていいよ。合格点でいいのよ。」
と私は言っています。
私ですら、自分が100点の育児なんてできないと思っていますよ。むしろ、プレッシャーをかけないでくれと思っています(笑)。
ママだからと自分を犠牲にしないでください。自分も大切にしてください。
育児は20年の長期戦です。あなたの代わりは誰もいないからこそ、あなたにも休みを取りながら、家族と話し合って協力しながらボチボチやっていきましょう。
<参考>
1)「周産期メンタルヘルス 助産師の関わりと服薬指導」『ペリネイタルケア 第38巻7号』メディカ出版,2019
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