もくじ
はじめに
前回は「マタニティブルーズ」や産後うつ病についての記事でした。子育ての女性を支えるのは夫や家族なのですが、今回は産後に起こる夫婦の「危機」についてです。私の周りには育児をしている友人もいますし、SNSでは子育てママアカウントも数多く存在していることを確認しております(笑)
友人や、ママアカウントの愚痴は、
「夫が子どもを風呂に入れただけでドヤって顔をする。」
「子どもが増えた。(夫のことを指す)」
と皆様、夫への不満を時に皮肉を込めて表現されています。
いつもはママやこれからママになる人たちを対象にしている記事ですが、今回は「パパ」たちにも読んでいただいたい話でもあります。
もし、子育て中のパパの中で、
「妻は何で怒っているんだろう?」
「何をしていいかわからない」
という思いがあるならば、是非読んでいただきたいです。

里帰り出産と産後のサポート体制
「里帰り出産と産後のサポート体制についてのアンケート調査」1)によると、
「出産に際して里帰り(する予定)か、また、その期間はどれくらいか」
という質問に対して、一番多い回答は、「里帰りしなかった(しない)」(44.1%)でした。次いで多いのは、「里帰りした(1ヶ月〜2ヶ月)」(22.6%)です。
保健指導をしていても、里帰りを希望しない方は多いと思います。家族が来る場合もありますが、両親(親)の年齢が高齢だったり、両親は働いているので平日家にいないという理由も聞きます。
私も「もし、自分が出産するなら」と想像してみましたが(笑)、私の田舎は政令指定都市まで自動車専用道路を使って1時間。産婦人科は市内に3件あります。異常が起きたら、1時間かけて医療センターに行くか、隣の県(県境の市です)に搬送となりますが、そもそも隣の県は、全国でNICUが最も少なく、その隣の県に住んでいた知人は出産(早産)の際に「NICUが空いていない」という理由からドクターヘリで他県搬送となりました。(もともと里帰り予定だったので里帰り先の地域に搬送されました)ですから、3次医療まで整っている政令指定都市圏で産むという選択を私も取るだろうな、と思います。
「出産後1ヶ月までの育児家事はどのように乗り切ったか(複数回答)」の質問に対しては、「実母・実父のサポート」(75.3%)、「夫のサポート」(47.9%)でしたが、
「出産後1〜3ヶ月までの家事育児は、どのように乗り切ったか(乗り切る予定か)(複数回答)」という質問では、「夫のサポート」(62.9%)、「実母・実父のサポート」(54.1%)、「自分で乗り切る(乗り切った)」(35.7%)となっていきます。
夫のサポートは頼りにされています。
妻(パートナー)の思い
「子育てに関するアンケート調査」2)で
「女性にとって理想のイクメンはそのような父親か(複数回答)」という質問に対して、多い回答は、「妻に言われなくても家事や育児をする」(51.6%)、「丸一日子どもの面倒をひとりで見ることができる」(50.2%)でした。
子どもをお風呂に入れたくらいでは、ママは満足できないようですよ、パパ(笑)
ですが、子どもと接する時間があきらかに妻より少ない夫にどれだけの育児・家事があることを想像できるでしょうか。
「察してほしい」
と言いますが、長年いろんな話や自身の経験から得た結論を言います。
「人は言われないと、察せません。」
それは、男子女子関係ありません。
もしかしたら、夫も何か言いたいことがあるかもしれません。
産後クライシス(2つのゲート)
「産後クライシス」という言葉は、2012年NHKの「あさイチ」で特集され、広まった造語で、「産後の夫婦の危機」を示します。産後クライシスは「母親になること」「父親になること」の違いによって起こります。夫は妊娠を自覚することはできませんし、出産直後から妻がほとんど育児を行います。里帰りしていたらもっと育児をする機会が遅くなります。ですから、「父親になる」ということは、「母親になる」よりも明らかに遅いのです。また、母乳育児が主であれば、父親は授乳する機会を得られないため、無力感を感じやすいです。
ケロケロ助産院 院長の塩野悦子氏は、研究によって子育てをする夫婦の間には2つのゲートがあるということを解明しました。
https://kerokero-shiono.com
2つのゲートとは、妻と夫それぞれが開け閉めをしています。
妻は、「夫の子どもの世話ゲート」を開け閉めしています。
このゲートがオープンな時は、夫の世話への意欲が増しますが、閉じていると夫の意欲は削がれてしまいます。
夫は、「妻の負担軽減ゲート」を開け閉めしています。
このゲートが開いている時は妻の負担は軽減するのですが、閉まっていれば妻の負担は大きくなります。
「察して」という言葉から思うに、妊娠期は「以心伝心」でうまくいっていたかもしれませんが、子育てでは、「意図的」にドアを開いていくことが重要になります。

互いのゲートをうまく開ける方法
その方法として、塩野氏は、
<妻>
・夫と子どもの接点を作る
・夫のやる気を促す
・夫のぎこちなさを多めに見る
<夫>
・大変な様子の妻をよく見る
・妻の話をよく聞く
・妻に労いの言葉をかける
・妻の作業を減らす
・妻の気分転換を支える
と述べています。
妻は「ドヤ顔」をしていても「さすが」「助かる」と言って、夫を褒めることが大切です。女性は思い出してください。その育児技術を失敗しながらも何とか獲得したように、子どもと接する時間の少ない夫が最初から完璧な育児なんてできるわけがないのです。経験することで、人は成長します。
夫はイライラしている妻に「どう声かけたらいいかわからない。」と声をかけないのですが、それが怒りの原因になっています。話をすることで頭の中が整理できます。話を聞いてもらうことが目的、助言を求めているわけではないのでご注意を。
あと、夫は子どもが泣き止まないと「はい!」と妻に渡しがちですが、正直に言います。妻だから泣き止むわけではありません。子どもは授乳・おむつで泣いていると思われがちですが、
原因がよくわからない泣き
も存在します。ママたちもそれに悩んで、たまたま医療スタッフが抱っこしたら泣き止んだ姿を見て涙されるっていうことがあるんです。
ですから、そのわからない泣きに頑張って向き合ってください。泣きの原因を探れというわけではありません。1〜2時間も何やっても泣かれることを是非体験して見てください。
産後サポート事業
ここまで書いてきましたが、もし夫が仕事でいっぱいいっぱいで、そこに育児が入ってくると無理というのなら、妻の負担軽減目的で「産後サポート事業」を利用してみるのもいいかもしれません。産後サポートは病院・クリニックによる産後入院や、訪問型のサポートなどがあります。
私が住んでいる自治体では「赤ちゃんホームヘルプサービス」があります。生後12週までの赤ちゃんがいるけど家族からのサポートが受けられない家庭が対象。サービス内容は◇育児(沐浴の介助、おむつ交換、ミルク授乳など)、◇家事(食事の世話、掃除、洗濯、アイロンがけ、買い物、ほかのきょうだいの世話など)とありました。かかる費用は、生活保護世帯は無料、非県民税非課税世帯であれば350円/時、それ以外の世帯は700円/時、別途交通費がかかります。1世帯につき30時間の制限があるようです。

自治体が行うサポート事業は補助があるので料金が安いのですが、自治体によっては、「講習会に参加が必要」や「事前面接が必要」などから「ややこしい」「受けるまでのハードルが高い。」という意見も聞きます。上記も市の広報誌情報なので、もしかしたら事前面接とかがあるのかもしれませんね。
そのためか、民間で育児・家事サポートを実施している会社もあります。そういうものを使うと良いかもしれませんが、そちらもすぐ使えるわけではないそうです(友人情報)。私はそのような友人の話を聞いて、事前にどのようなサポートが行政・民間であるのか調べて事前に申込をしておくなど、『保険』をかけておく必要があるな、と考えました。
まとめ
●里帰り分娩よりも住居地域での分娩数が多く、夫のサポートを必要としている。
●産後の夫婦にはそれぞれ「夫の子どもの世話ゲート」と「妻の負担軽減ゲート」があり、その扉が閉まっていると妻の負担が増え、夫は育児参加の意欲低下につながる。そのため、夫婦はそれぞれのゲートを「意図的」に開いていく必要がある。
●産後サポート事業を自治体や民間がサービスで行っているが、手続きの手間などを事前に確認しておくととよい。
引用データ
1)(株)ブライト・ウェイ「里帰り出産と産後のサポート体制についてのアンケート調査」(インターネット調査)2016年9〜12月調査、男女1,387名対象(男性94名、女性1,293名、中心年齢は30代前半)
2)明治安田生命「子育てに関するアンケート調査」(インターネット調査)2017年8月実施、全国の20~59歳の子どものいる既婚男女1,032名対象
参考文献
3)塩野悦子「産後の2週間・1ヶ月健診 母子のアセスメント&ケア 特集11 Topic①産後クライシス」『ペリネイタルケア 第38巻10号』メディカ出版,2019
4)佐久医師会 教えて!ドクタープロジェクトチーム著『マンガでわかる!子どもの病気・おうちケアはじめてBOOK』株式会社KADOKAWA,2019
コメント