第22回 産後⑤ 直接授乳(直母)−2 抱き方について

はじめに

 前回は、「吸着」の方法について説明しました。今回はおっぱいをあげる時の赤ちゃんの抱っこの仕方について説明します。何故これを説明するかと言いますと、乳頭損傷がありそれで「乳頭保護器」を使う方がいらっしゃるのですが、実はサイズ合っていない乳頭保護器を使うことで、乳頭(特に乳頚部)が切れてしまうことがあります。また保護器を浅吸いすることによる「乳頭への刺激不足」「乳頭混乱」のリスクもあり、乳頭が短く咥えにくいというような理由がなければ、私は使う人は限られてくると考えています。
 
 傷を予防するために吸着と乳頭の外し方は大変重要なのですが、もし傷が出来ても傷を避けるような飲ませ方で幾分か軽減されます。また、経産婦さんによるある乳汁のうっ滞も抱き方を変えるだけで軽減することも可能です
 ですから、今回は授乳時の赤ちゃんの抱き方について説明していこうと思います。

横抱き(交差抱き)

 横抱きはおそらく最もスタンダードな飲ませ方です。
 赤ちゃんを抱える(支える)腕は、あげる方とは逆の腕で、おっぱいを支える手はおっぱい側にある手です。イラストでは、右のおっぱいから授乳をしているので左腕で支えて右手を使って乳頭を含ませた後に右手を赤ちゃんのお尻側に持ってきています。そうすることで腕が「交差」するので「交差抱き」ともいわれます。
 この抱き方が比べてどの形のおっぱいでもあげやすく、かつ難しくないのでこの抱っこで授乳している方が多いです。

脇抱き(フットボール抱き)

 「脇抱き」は、赤ちゃんをフットボールのように脇に抱えるので「フットボール🏈抱き」とも言います。
 この抱き方は、おっぱいが大きく下に下がっている褥婦さん向けです。おっぱいが大きいと乳頭も下を向き、また外側に向きます。横抱きができないわけではありませんが、乳頭の位置と赤ちゃんの口の位置を合わせないといけないので、おっぱいをしっかり持ち上げる必要があります。
 脇抱きならば、赤ちゃんの位置を調整することでそこまで持ち上げなくても良いですし、外側に向いている乳頭とも合いやすいです。
 ただ、脇に抱えて飲ませるのは、横抱きに比べて抱っこがしにくいので、クッションを下に置くなどして支えを作ると飲ませやすいです。
 双子のお母さんでは、赤ちゃんを両脇に抱えて授乳されたりします。

 他にも私は経産婦さんにこの抱き方を説明することがあります。
経産婦さんは乳汁が産生されるのが初産婦さんより早いのですが、産生される乳汁が乳房の外側でうっ滞していることが多いのです。

 赤ちゃんがおっぱいを吸う方向でおっぱいのどの部分の乳汁が中心に抜けていくか分かります。
 赤ちゃんの顎が当たる方向が一番よくおっぱいが吸い出され、その次に赤ちゃんの鼻の方向が2番目くらいにおっぱいが吸い出されます。
 ですから、脇に抱えると赤ちゃんの顎は褥婦さんのおっぱいの外側に向くため、外側に溜まっている乳汁が吸い出されやすくなります。抱き方を変えただけで、楽になったと言われます。
 また、この方法によって乳腺炎の際、乳腺炎が起きている場所方向に合わせて抱き方を変えることでも乳汁のうっ滞を解消してくれる場合があります。

縦抱き

 正直、一番難しいです。ですが、私がいたBFHでは、ほぼ皆さん縦抱きでした。

 その理由は先ほどの脇抱きでも出てきました、おっぱいが吸い出される方向にあるのです。初産婦さんや経産婦さんで乳汁うっ滞の訴えが多いのは、おっぱいの上方向(頭側)で、縦抱きだとそのうっ滞が除かれやすいからです。(と当時の婦長さんから聞いた覚えがあります。)流石に顎を上方向に持ってくるとアクロバットな飲ませ方になりますので。

 乳房のふくらみが小さかったり、乳頭が少し短い場合などはこの飲ませ方が飲ませやすかったりします。また、赤ちゃんの体が小さい(低出生体重児)でもこの抱き方で高さをタオルやクッションで調節してあげると飲ませやすい場合があります。脇抱きが適しているようなおっぱいの方はおっぱいをしっかり持ち上げないといけないのでより難しいでしょう。

 また乳房のふくらみが小さい、乳頭が短い場合に適していると言いましたが、先ほども言いましたように一番難しい抱き方です。褥婦さんの手技的に難しいようでしたら、横抱きにシフトすることもあります。

 この抱き方の他の利点は、イラストのように赤ちゃんの顎が支えやすいです。低出生体重児の赤ちゃんは吸う力が弱いので、顎を褥婦さんが支えてあげることで吸えることがあります。 

乳頭に傷ができたとき

 乳頭に傷ができた場合は、授乳時の抱き方を変えるだけでも痛みが軽減することがあります。横抱きから脇抱き、縦抱き、と「どの姿勢が痛みが減るか」試してみてください。

 そして乳頭はこまめな保湿ケアをしてください。ラノリン(羊油)やバーユ(馬油)は拭き取りが必要ないのでオススメです。

 それでもあまりにも乳頭が痛い場合は、私は授乳を中断して分泌維持のために搾乳で授乳することもよいと思います。「痛い」って言うことは結構ストレスですし、母乳育児への意欲を低下させるのではないかと考えているからです。

 その際の搾乳方法は私は搾乳器を勧めています。理由は、手搾りは難しいからです。みんな胸に青アザを作っています。それでも上手に絞れない人がほとんどです。搾乳器の方が上手で簡単です。
 理由がよくわからないのですが「搾乳器は早期は使わない方がいい」と言う助産師さんがいらっしゃいます。ですが、私がいたBFHは乳汁分泌維持のために早期から搾乳器を使っていましたので問題ないと考えます。(下の記事参照)

 ただ、搾乳器を洗ったり消毒したりするのも「めんどくさい」ですよね。めんどくさいと感じるようになる頃には乳首の傷も治っているのではないでしょうか。

 母乳分泌維持のためには、赤ちゃんが吸啜(きゅうてつ)するもしくは搾乳による乳頭の刺激が必要です。

まとめ

吸着(ラッチ・オン)

・吸着の際は、乳房を支え乳頭を少し上向きにし、赤ちゃんを引き寄せ赤ちゃんの鼻方向から赤ちゃんの口に乳頭を含ませる。

・浅く吸っていると乳頭が痛くなる。痛いときは外して吸着を再度行うが、その際、乳頭が引っ張られないよう、赤ちゃんの口に指を入れて圧を抜いて乳頭を外す。

抱き方

・抱き方は横抱き(交差抱き)、脇抱き(フットボール抱き)、縦抱きがある。

・おっぱいの形や乳汁のうっ滞、傷の有無に合わせて抱き方を変える。

・乳頭の傷にはラノリン・バーユ等で保湿ケアを行うが、抱き方を変えても乳頭の痛みが強いようならば直接授乳は中断し、分泌維持のために搾乳に一時的にシフトしても良いと執筆者は考えている。

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