第23回 妊娠⑥ 妊婦健診-6 GBS

はじめに

 「GBS(培養)検査」をご存知でしょうか。「GBS」とは「B群溶血性連鎖球菌」のことです。どうしてこの検査を妊娠中に行うのか、この検査で陽性になった場合、分娩にどのような影響があるのかなどをお話ししたいと思います。

GBS検査の目的

 GBS検査妊娠35週から37週までの間に1回は行われる検査です。なぜ行われるかと言いますと、母体のGBS保菌の有無を確認するためです。GBSは直腸から会陰(えいん)を経て膣内に移行するため、検査の際は膣入口部ならびに肛門部から採取します。

GBS(B群溶血性連鎖球菌)とは

 GBSは妊産婦の約2~5%は咽頭に、約10~30%は下部消化管や泌尿生殖器の粘膜に何の症状もない状態でいます(無症候性保菌)。ですが、GBSは膣から子宮に向かって上がっていき、陣痛や破水に伴って羊水に侵入します。胎児が嚥下した感染羊水のGBSは肺から血中に侵入し、胎児機能不全・胎児敗血症、新生児感染症を引き起こすことがあります。

 GBSは肺炎を引き起こしたり、髄膜に侵入し髄膜炎を引き起こします。新生児髄膜炎は死亡率が高く、また神経学的後遺症が多いです。

 しかし、必ずしも上記の症状を引き起こすわけではありません。

 GBS保菌者から自然経過で出生した新生児の約50~60%が垂直(母→子)感染し、そのうち1~2%にGBS感染症が生じます。

 新生児GBS感染症は、その発症時期により日齢7日未満に見られる「早発型」と、日齢7日以降に見られる「遅発型」とに分類されます。

 「早発型」の多くは分娩時の産道感染に起因します。産婦人科診療ガイドライン:産科編2017』1)によりますと、新生児GBS感染症の約63%が出生当日に発生し、また、培養で証明された早発型GBS感染症児87例のうち、死亡13例(14.9%)、後遺症残存5例(5.7%)と報告されています。

 発症はしにくいですが、一旦発症した場合の重篤性を考慮して、新生児早発型GBS感染症児を少しでも減少させるための介入方法として、ガイドラインでは全妊婦に対して検査が勧められています。自治体の妊婦健診での検査の補助対象になっており、実施率も100%です2)

検査時期について

 「産婦人科診療ガイドライン:産科編2014」までは検査推奨時期は、妊娠33〜37週の間となっていました。
 しかし、分娩時のGBS保菌に対する陽性及び陰性の的中率は、分娩5週間以内のGBS検査ではれば陽性的中率87%陰性的中率95%以上であったのに対して、GBS検査から6週間以上経過した場合は、陽性的中率は43%陰性的中率80%まで低下したという報告があります。また、妊娠33〜37週の検査時期による対策では早発型GBS感染症による周産期死亡率は低下したものの、発症率は低下しなかったという本邦の疫学調査報告があり、「産婦人科診療ガイドライン:産科編2017」では検査時期が妊娠35~37週と修正されました。

分娩時のGBS感染対策

 新生児GBS感染症の多くが母体からの垂直感染と考えられますので、感染予防対策として周産期管理が重要となってきます。
 「産婦人科診療ガイドライン:産科編2017」では、

2.以下の妊産婦の経膣分娩中あるいは、前期破水後、新生児の感染を予防するためにペニシリンなどの抗菌薬を点滴静注する。
 1)GBS培養検査でGBSが陽性
 2)前児がGBS感染症
 3)今回の妊娠中の尿培養でGBS検出
 4)GBS保菌状態不明で、破水後18時間以上経過、または38.0度以上の発熱あり

と記載されています。
アメリカのガイドラインで推奨されている抗菌薬の使用方法は、

ペニシリンGを初回500万単位、以降4時間ごとに2.5~300万単位を分娩まで静注する。

もしくは

ABPC(アンピシリン 商品名:ビクシリン)を初回量2g静脈注射し、以降4時間ごとに1gを分娩まで静注する。
となっています。これまで勤めてきたクリニックや病院では、このビクシリンを使っていました。

ただし上記の場合はペニシリンに過敏症がない場合であり、ペニシリン過敏症がある場合は、セファゾリンやクリンダマイシン、エイスロマイシンという抗菌薬を使用します。

GBS保菌妊婦に分娩の4時間以上前から抗菌薬投与を開始、抗菌薬の血中濃度を維持することは、早期型新生児のGBS感染予防に有効的な方法です。CDC(アメリカ・疾病予防管理センター)ガイドラインにも最低4時間前の抗菌薬投与が望ましいとあります。

 ABPC(アンピシリン 商品名:ビクシリン)の羊水濃度は3時間ほどでピークに達します。また予防的抗菌薬の投与開始から児娩出までの時間が3.5時間未満であった場合と3.5時間以上の場合と比較して児の保菌率が有意に上昇するという国内報告3)もあることから、「4時間おき」という数字も納得できます。

 ですが、私が看護師としてNICUにいた頃、「ビクシリンが間に合わなかった。」ということでNICUに入院になった新生児がいました。検査結果からGBSの感染兆候がないことを確認して退院していってましたが。その時、「何で間に合わないんだろう。」と思うことはありましたが、助産師になってその理由はわかりました。

 急激に分娩進行する経産婦さんは、間に合わないことあります。産婦さんにはなるべく余裕を持ってきて欲しいのですが、分娩所要時間2時間の方もいらっしゃるので、何とも言えない部分もあるのです。ですから、ビクシリン投与して4時間以内で分娩に至った場合は、児の感染兆候に気をつけなければいけません(医療者が)

まとめ

①早発型GBS感染症は、発症しにくいが発症するれば重篤な症状を引き起こす。

②GBS培養検査で陽性の妊婦や陽性の可能性がある妊婦対しては分娩時にペニシリンなどの点滴静注が標準医療であり、有効な感染対策
である。

<引用・参考文献>
1)『産婦人科診療ガイドライン:産科編2017』
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2017.pdf
  (閲覧日:2019年12月19日)
2)妊婦健康診査の公費負担の状況にかかる調査結果について
  (閲覧日:2019年12月19日)
3)脇本寛子ら「Group B Streptococcus の垂直伝播予防」『感染症誌 79』p549~555,2005

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