
もくじ
はじめに
久しぶりの更新となりました。
前回の更新からまさか、新型コロナウイルス感染症がこんなにも拡大するとは予想もできませんでした。
新型コロナウイルス感染症の感染予防策により、両親学級に参加できない、里帰り出産ができない、ご家族のサポートが得られないなど、妊娠や出産、育児をする皆さんが不安に感じているのではないでしょうか。
そんな不安が1mmでも軽減するよう、情報の提供をしていきたいと思います。
今回は、NST という検査の目的や方法について説明していきます。
NSTってなに?
NSTはそもそも何の略かと言いますと、
「ノンストレステスト(non-stress test)」の略。
通常の健診では臨月、妊娠36週以降に実施されます。(クリニックによっては早めに実施されるかもしれませんが、目安はそれくらいです。)
この検査の主な目的は、お腹の中にいる赤ちゃんの健康状態を把握することにあります。
どういう風に検査をするの?
妊婦の姿勢
この検査は、ノンストレスですから、赤ちゃんにもお母さんにもストレスがかからないよう、リクライニングのチェアに座ってもらうか、ベッドに横になってもらい頭側を45度程度をあげた状態で行います。
妊娠末期になると子宮が大きくなります。そのため、妊婦さんが仰向けの状態で寝ようとすると、子宮が子宮の下(背骨側)にある大きな血管を圧迫してしまいます。それにより、血流が停滞することで血圧低下が起き、気分不良を起こすのです。ですから、ゆったりと座った姿勢でモニタリングを行います。
モニターの装着
分娩監視装置という機械についているモニターを2つ装着します。
写真では、数字の表示と波形の印刷をしているのがその分娩監視装置です。
ちなみに「分娩監視装置」という名前がついていますので、この機械は分娩時にも装着します。
1つのモニターは胎児心拍数トランデューサーと言いまして、赤ちゃんの心拍を読み取ります。赤ちゃんの心拍は、赤ちゃんの位置やどちらを頭に向けているかで聞き取れる場所が違います。そのため、トランデューサーをつける前にお腹を触って赤ちゃんの位置を確かめることがあります。
もう1つのモニターは、陣痛計。子宮の収縮の圧力を感知します。これは、子宮底(臨月頃には胸の下あたり)に装着します。

この検査は通常なら20分程度、場合によってはそれよりも延長する(40〜60分)ことがあるので事前にトイレを済ませておくといいです。
最短20分でも同じ姿勢はきついので、姿勢を変えたくなることがあるでしょう。ですが、姿勢を変えると心拍や陣痛計が読み取れなくなるので、姿勢を変えたらスタッフに伝える、もしくはスタッフに尋ねた方がよいです。
二つのモニターが読み取った心拍数や圧力は、波形として分娩監視装置が記録し、紙に印刷します。
NSTの評価
NSTによって得られた波形を判読し、赤ちゃんの健康状態の評価をします。
印刷された紙には、2つの波形が描かれています。上の方が赤ちゃんの心拍で、下の方が子宮収縮の変化です。(写真参照)
NSTの評価のポイントは、
①赤ちゃんの心拍数が正常範囲か
②赤ちゃんの心拍数の振れ幅が正常範囲か
③赤ちゃんの心拍数が一過性に増加し、再び元に戻るか
④赤ちゃんの心拍数が一過性に減少することがないか
(ある場合は子宮収縮と同時か、遅れて減少するか、関係ないか)
です。
②に関しては赤ちゃんが寝ている状態だと、振れ幅が小さくなることがあるので赤ちゃんが起きるのを待ったり、妊婦さんのお腹に振動を与えて赤ちゃんを起こしてみたりします。
これらのポイントを確認し、良好と判断されればモニターが終了します。
波形に異常があったら
波形に異常があっても必ずしも緊急を要したりするわけではありません。
グレーゾーンであれば、経腹エコーで赤ちゃんの動きをみたり、羊水量をみたり、臍帯動脈や脳の血流をみたりなども合わせて総合的に判断されます。
ですが、モニター波形によっては緊急であると判断し、緊急入院、分娩の方針となることもあります。
妊婦さんができるセルフチェック
不要不急な外出が控えられるようになっている今、「赤ちゃんが元気か」と心配になる妊婦さんもいるかと思います。
実は赤ちゃんの健康状態を把握する上で大事なものは普段、妊婦のみなさんが感じていることにあります。
それは
胎動です。
赤ちゃんが酸素が足りなくて苦しい、と言った状態になると、胎動が少なくなったり胎動が全く無くなってしまうことがあります。
だからと言って、胎動をずっと観察していると生活できませんので、10回の胎動を感じるのに要した時間がどれくらいか(10回胎動カウント法)で評価します。施設によっては、毎日測定、記録するように言われている妊婦さんもいるかもしれません。
妊娠末期では、胎動を10回感じるまでに平均20.9±18.1分かかったという報告があります。はっきりとした基準があるわけではないのですが、10分胎動を感じるのに2時間以上かかるのは異常という判断基準を持っている施設が多いようです。施設によっては、これよりも短い時間を基準としていることもあるでしょうからそこは施設の基準に従い、
「胎動が少ない」もしくは「胎動が全くない」場合は必ずかかりつけの産婦人科に連絡してください。
「胎動カウンター」がついている妊婦向けのアプリもありますから、そちらを活用してもよいかと思います。
まとめ
①NST(ノンストレステスト)は、お腹の中の赤ちゃんの健康状態を評価するものである。
②胎児心拍は記録され、その波形を判読し、健康状態を評価する。
異常が見つかれば、経腹エコーも行い、総合的に判断する。
③妊婦が胎児の健康状態を把握する一つの方法として、胎動カウントがある。
<参考文献>
1.日本産婦人科学会/日本産婦人科医会 編集・監修『産婦人科診療ガイドライン産科編2017』日本産婦人科学会,2017
2.ペリネイタルケア 編集委員会 編著『妊婦健診と保健指導パーフェクトブック』(株)メディカ出版,2016
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